JCI・マグネット認証に
おける
医療の質評価
Medical Quality
Evaluation in JCI and
Magnet Recognition
第3者認証の客観的な評価を受けること
質の高い医療を効率的に提供するためには、病院の自助努力とともに第三者による評価が有用とされており、日本の多くの病院は、医療機能評価機構による病院機能評価を受審しています。当院では、国内外を問わず当院に来られる患者さんに、国際水準の医療を提供していることを証明する上で、国際的な病院評価機構であるJoint Commission International(以下、JCI)の認定を3年毎に更新しています。このことで、当院で行われている医療安全と医療の質向上への取り組みがJCIの示す世界基準と合致しているのかを確認しています。また2019年には看護のノーベル賞ともいわれるマグネット病院認証を受け、看護師・患者を引きつける魅力ある組織としての認定も得られました。当院では、両者の受審を通じて国際水準の患者安全を日常業務として定着させるとともに、医療の質の向上を目指した継続的な活動を推進しています。
医療の質を測る
JCIやマグネット認証といった第三者認証では、医療の質の可視化が求められています。当院では2007年より、Quality Indicator(以下、QI)の公表を行ってきました。自分たちの提供している医療が本当に質の高いものであるかどうか、課題があればそれが改善されているかどうかなどを数値として示すことで、より質の高い医療の提供ができると考えています。医療行為のプロセスやアウトカムに関わるQI指標を明示し、PDCA(Plan, Do, Check, Act)サイクルに則り、医療の質の改善活動が継続的に行われていることを示すよう求めています。
JCI認証について
1JCIとは
JCIは米国の医療施設を対象とした第三者評価機関である The Joint Commission の国際 部門として、1994年に設立された非営利組織 Joint Commission International の略称です。「患者安全」「感染管理」「医療の質と改善」など、13分野1,200項目(第7版病院審査基準)について医療施設を評価します。国際基準の医療の質を担保し、安全な医療を提供していると認められた施設に与えられる認定です。取得後、3年ごとのJCI 認定更新のための審査が行われます。当院は、2012年7月に初回認定を取得しており、2015年、2018年、2021年に認定を更新しています。4名の審査官が、聖路加国際病院、予防医療センター、訪問看護ステーション、マタニティケアホーム、メディローカスの5 施設に対してJCI の審査項目(ME:Measurable Element)の遵守状況が審査されました。
患者中心型の基準(全7章)
- IPSG:International Patient Safety Goals : 国際患者安全目標
- ACC:Access to Care and Continuity of Care : ケアへのアクセスとケアの継続性
- PCC:Patient-Centered Care : 患者中心のケア
- AOP:Assessment of Patients : 患者の評価
- COP:Care of Patients : 患者のケア
- ASC:Anesthesia and Surgical Care : 麻酔と外科的ケア
- MMU:Medication Management and Use : 薬剤の管理と使用
医療機関管理基準(全6章)
- QPS:Quality Improvement and Patient Safety : 医療の質の改善および患者の安全
- PCI:Prevention and Control of Infections : 感染の予防と管理
- GLD:Governance, Leadership, and Direction : ガバナンス、リーダーシップと監督
- FMS:Facility Management and Safety : 施設管理と安全性
- SQE:Staff Qualifications and Education : 職員の資格と職員教育
- MOI:Management of Information : 情報管理
2JCI認証を受けることの意味
JCIでは、JCI認定は各病院に以下のメリットを提供するとしています。
- 病院の経営陣に指針を提供する:JCIは病院のリーダーたちが組織の運営と患者へのケアサービスの提供を効率的かつ効果的に行えるよう支援し、治療の質と患者の安全を担保できるようにする。
- スタッフ教育が向上する:当認定プロセスは教育的な役割を果たすよう設計されている。JCI審査官は各病院が基準の主旨をより的確に満たすため、また何よりも、日々の業務をより適切にこなせるようにするために役立つベストプラクティスのアプローチや戦略を共有する。
- 各病院による改善に向けた取り組みの企画・強化を支援する:認定には、各病院が継続的な質改善と、ケア・治療・サービスのプロセスを標準化する際に役立つ業務改善コンセプトが含めている。
- 競争上の優位性が得られる:認定を獲得することにより、病院が最高の質と最も安全なケア及びサービスを提供することに全力を尽くしていることを患者及び社会に対して実証できる。また、同じタイプのケア・治療・サービスを提供している他の病院との差別化も可能になる。
3国際患者安全目標(IPSG)とは
国際患者安全目標(IPSG)は、医療において問題がある領域を重点的に取り上げ、安全かつ質の高い医療の提供に不可欠なものであるとの認識に基づき、部門横断的に病院全体を対象として改善を目指すものです。JCIの審査では、このIPSGに関連する測定項目が未達成であると、認証を得ることができないという最重要項目です。
4医療の質の改善活動は病院全体から診療科、部署単位へ
医療の質の改善活動を行うために、病院としての目標を掲げて、それを四半期毎に評価をするなどの試みは多くの施設で行われています。当院でも、病院の質の改善に取り組むQI委員会が選定するQI指標の中から、病院で重点項目を決め、病院の目標としてモニタリングが行われています。JCIでは、医療の質の改善文化を根付かせるために、部署単位での部署の状況に即した具体的なQI指標の選定が求められています。医師、看護師およびその他の医療スタッフは、様々な医療の質の改善活動に参加しており、その活動状況と成果をスタッフのパフォーマンス評価につなげることで、医療の質の改善活動を推進することの一助となっています。
5QI活動を支援する
JCIが求めるレベルのQI活動が円滑に行われるよう、当院では様々な部署や委員会が支援を行っています。医療の質管理室では、各部署の目標設定の確認が行われ、すでに改善された指標が引き続き採用されているような場合、新規目標の設定の立案支援を行います。対象部門は診療科、看護部、薬剤部、コメディカル部門、事務部門と多岐に及んでいます。また、PDCAサイクルを継続することが重要であるため、データを如何にして取得するかは大切なことです。当院では、医療情報課がその役割を一手に引き受けることで、中央部門で取得したデータを毎月グラフにしてフィードバックし、各部署のQIボードに掲示することで、部門で利用することができるようになっています。さらに、QI委員会で定期的に発表し、改善策を委員会で検討することでPDCAサイクルを回すことにつながっています。
マグネット認証について
1マグネット認証とは
聖路加国際病院は、2019年11月に日本で初めてマグネット認証を取得しました。マグネット認証(Magnet Recognition®)は、世界最大の看護の認証組織であるアメリカ看護師認証センター(ANCC:The American Nurse Credentialing Center)が看護の卓越性を評価する厳しい基準を満たした医療機関を認証するものです。“マグネット”とは、その文字の通り「磁石・引きつけるもの」を意味し、看護師や職員、患者を磁石のように引きつけて離さない医療機関のことを「マグネットホスピタル」と称します。
この認証の歴史は、1980年代に米国で多くの病院が体験した看護師不足に始まります。熾烈な看護師獲得競争が行われる中で、離職率が低く、多くの看護師を引きつけて離さない病院が存在しました。これらの病院において、「なぜ看護師が引きつけられ辞めないか」というプラスの要因に注目し分析された研究結果から、卓越したアウトカムや魅力の共通項目が見いだされ、マグネット認証プログラムが作られました。看護師を引き付ける力として抽出された魅力の共通項目を集約して作られたのがマグネット®モデルです。モデルを構成する5つの要素ごとに審査項目が存在し、この要素が施設に存在することを確認しながら審査が進められます。
図:マグネット®モデル
2看護の質に関する臨床指標
マグネット認証では、看護ケアの質を実証するため、データを用いた「実証的アウトカム」(Empirical Outcome)の提示が必要とされます。実際の取り組み事例の記述に加えて、改善を実証する数値データを示すことが求められます。当院の看護部では、以下のような指標を看護関連の質指標として取り上げ、改善に取り組んでいます。
- 転倒転落発生率(入院・外来)
- 受傷に至った転倒転落発生率(入院・外来)
- 院内発生のⅡ°以上の褥瘡発生率(入院)
- 身体拘束実施率(入院)
- 中心静脈ライン関連血流感染発生率:CLABSI(入院)
- カテーテル関連尿路感染発生率:CAUTI(入院)
- 人工呼吸器関連事象:VAE(入院)
- 患者経験値調査(入院・外来)
3看護部におけるQI活動の工夫
マグネット認証では、すべてのスタッフが変革的リーダーであることが重要であり、これはQI活動においても同様です。新人からベテランまで、すべてのスタッフが、自部署の看護ケアの課題を理解し、改善のために主体的に貢献することが求められます。
当院の看護部におけるQI活動を支えているのが「看護部検討会」です。褥瘡ケア検討会、クリティカルケア検討会など、看護の様々な分野ごとに全14の検討会が存在し、エビデンスに基づくケアの実践を推進するために、各領域の看護ケアの知識・技術の院内への普及や、QI活動を行っています。たとえば、褥瘡ケア検討会では、褥瘡発生率のモニタリングや、褥瘡が発生した症例の振り返りを実施し、予防可能性などについて丁寧に分析し、院内への情報発信・教育活動などを行っています。これらの活動は、専従の褥瘡管理者がリーダーシップをとりつつも、自部署のデータ分析においては、各部署から検討会に参加しているスタッフが主体となります。部署内で、新しいケア方法を広め、定着させるためには、褥瘡管理者ひとりの働きかけでは決して実現できないので、各部署の検討会メンバーの主体的な働きが非常に重要となります。
また、QI活動は、一度きりの介入で終わるのではなく、PDCAサイクルを継続することが重要であるため、スタッフがモチベーションを保ちながら、取り組み続けられる工夫も必要となります。工夫のひとつとして、QI指標のデータをできるだけタイムリーに、すべてのスタッフが目にできる形でフィードバックしています。当院では、医療情報課の強力なバックアップにより、各指標のデータは1ヶ月毎にグラフ化して、管理者を通じて各部署にフィードバックされ、各部署のQIボードに掲示しています。データが改善した時には、「Good!」などと記載し、自分たちの取り組みを目に見える形で評価できるようにしています。特に、当院でマグネット認証を経験するプロセスでは、「ほめる」「承認する」といったポジティブマネジメントが改善活動を促進する力になると実感しました。指標となるデータを分析する際には、悪い点にばかり着目しがちですが、よいところを見つけるという視点も、改善のプロセスにおいて不可欠です。各部署の持つ強みに目を向け、スタッフ全員で前向きな変化を楽しむという「マグネット的」QI活動を実践していきたいと考えています