10感染管理Infection Control

34 中心ライン関連血流感染(CLABSI)発生率 Central Line-Associated Bloodstream Infections

中心ライン関連血流感染(CLABSI)発生率 集中治療室(ステップダウンユニットを含む)

中心ライン関連血流感染(CLABSI)発生率 急性期一般病床

発生率の単位:1,000中心ライン使用日数あたり

当院値の定義・計算方法

分子
分母と同じ1年間に日本環境感染学会JHAIS(Japanese Healthcare-Associated Infections Surveillance)委員会の中心ライン関連血流感染判定基準のうち、検査確認された血流感染(LCBI:Laboratory confirmed blood stream Infection)に合致した入院患者数
分母
1年間の入院患者における延べ中心ライン使用日数

参考値の定義・計算方法1)

分子
JHAIS委員会医療器具関連感染サーベイランス事業に参加する病院の集中治療室および急性期一般病床において、2020年1月1日から2022年12月31日までに同委員会のCLABSI判定基準(臨床的敗血症無し)に合致した患者数
分母
上記病院の集中治療室および急性期一般病床における、2020年1月1日から2022年12月31日までの延べ中心ライン使用日数

臨床的意義: なぜこの指標が医療の質を示しているのか

CLABSI(Central line-associated bloodstream infection : 中心ライン関連血流感染)を発症した患者は重症化しやすく、死亡リスクは最大25%に上ります2)。CLABSIのリスクは医療機関、部署、患者の特性に左右されますが、エビデンスレベルが高い予防策の実施により、CLABSIの65~70%は予防可能と推計されています3)

Plan(計画)

  • CLABSI発生率が2020年度CLABSI発生率を下回ることを目標とする。

Do(実行)

  • 2010年度 集中治療領域を対象にCLABSI発生率の定期的な測定とフィードバックを開始
  • 2011年度 全病棟を対象にCLABSI発生率の定期的な測定とフィードバックを開始
  • 2012年度 
    • 中心ライン挿入部位の皮膚消毒に1%クロルヘキシジンアルコールの使用を開始
    • 中心ライン挿入ケアバンドルを導入し、実施率の測定とフィードバックを開始
  • 2015年度 中心ライン挿入ケアバンドルおよびその後に行うCLABSI予防策の実施状況を直接観察法で確認するオーディットを開始し、実施率の定期的なフィードバックを開始
  • 2016年度 中心ライン挿入部位の皮膚消毒にアプリケータ入り1.5%オラネキシジングルコン酸塩液の使用を開始
  • 2017年度 オーディットを継続するとともに、集中治療領域におけるライン挿入部管理方法を見直し
  • 2020年度 輸液ラインアクセスポートに接続するアルコール含浸キャップの使用開始
  • 2021年度 中心ライン留置用ナビゲーションシステムの導入による挿入手技に要する時間の短縮およびライン挿入チーム設置に関する検討を開始
  • 2022年度 
    • 集中治療領域を対象にクロルヘキシジンによる全身清拭のトライアルを開始
    • 中心ライン挿入時のオーディットに加え、挿入中の管理状況に関するオーディットを開始

Check(評価)

  • CLABSI発生率の経時的変化を確認するとともに参考値と比較する。

Act(改善)

  • CLABSI発生率の定期的な測定とフィードバック
  • CLABSI予防を目的とした中心ライン挿入時バンドル実施率の定期的な測定とフィードバック
  • 中心ライン挿入中の患者に実施するCLABSI予防策実施率の定期的な測定とフィードバック

考察・改善に向けての今後の予定

今後も血流感染予防策を確実に実施し、
CLABSI発生率の低減へ

2022年度のCLABSI発生率は、一般病棟で2021年度より低い値となり、引き続き参考値を下回っています。

集中治療領域では2021年度よりも低い値となり、参考値を下回りました。 最新のCLABSI予防戦略4)に基づいた、一部の集中治療部門でのクロルヘキシジンによる全身清拭の導入により改善した可能性が考えられます。発生率の上昇は一部の部門に偏る傾向があり、それらの部門を中心に改善を図る必要があります。 今後もCLABSI発生状況の推移を注視しながら、他の集中治療部門へのクロルヘキシジン清拭の導入拡大を検討していく予定です。

また、中心ライン挿入中の適切な管理の徹底を目指し、オーディットを強化していきます。

参考文献

  • 1)日本環境感染学会 JHAIS委員会 医療器具関連感染サーベイランス 2020年1月~2022年12月データサマリー
    http://www.kankyokansen.org/uploads/uploads/files/jsipc/jhais_device-summary2022.12.pdf
    (Accessed 2023.12.24)
  • 2)Centers for Disease Control and Prevention:Guidelines for the Prevention of Intravascular Catheter- Related Infections,2011.
    https://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/rr5110a1.htm
    (Accessed 2023.12.24)
  • 3)Umscheid CA, Mitchell MD, Doshi JA,et al.: Estimating the proportion of healthcare-associated infections that are reasonably preventable and the related mortality and costs. Infect Control Hosp Epidemiol. 2011;32(2):101-114.
  • 4)Buetti N, Marschall J, Drees M, et al. Strategies to prevent central line-associated bloodstream infections in acute-care hospitals: 2022 Update. Infect Control Hosp Epidemiol.2022;43(5);1–17.
医療の質
評価側面
Struc­ture Pro­cess Out­come
指標改善
パターン
医療従事者へのリマインド コミュニケーションの改善 監査とフィードバック 医療者への教育 患者への教育 患者へのリマインド 患者へのプロモーション 組織・体制の変更 ルールの変更

35 膀胱留置カテーテル関連尿路感染(CAUTI)発生率 Catheter-Associated Urinary Tract Infections

膀胱留置カテーテル関連尿路感染(CAUTI)発生率 集中治療室(ステップダウンユニットを含む)

膀胱留置カテーテル関連尿路感染(CAUTI)発生率 急性期一般病床

発生率の単位: 1,000膀胱留置カテーテル使用日数あたり

当院値の定義・計算方法

分子
分母と同じ1年間に、日本環境感染学会JHAIS(Japanese Healthcare-Associated Infections Surveillance)委員会 医療器具関連感染サーベイランス部門によるCAUTI判定基準に合致した入院患者数
分母
1年間の入院患者における延べ膀胱留置カテーテル使用日数

参考値の定義・計算方法1)

分子
JHAIS委員会 医療器具関連感染サーベイランス部門に参加する病院の集中治療室および急性期一般病床において、2020年1月1日から2022年12月31日までに同委員会のCAUTI判定基準に合致した患者数
分母
上記病院の集中治療室および急性期一般病床における2020年1月1日から2022年12月31日までの延べカテーテル使用日数

臨床的意義: なぜこの指標が医療の質を示しているのか

入院後に起こる尿路感染の約70~80%が膀胱留置カテーテル関連尿路感染(Catheter-associated urinary tract infections:CAUTI)です2)3)。また、膀胱留置カテーテル(以下、カテーテル)を使用の患者が細菌尿を起こす確率は留置1日につき3~10%であり、30日目には100%に至ります4) 5)。このうち10~25%に尿路感染の症状を認め、さらにその0.4~4%が二次的血流感染を起こすと報告されています6)7)8)

一方、エビデンスレベルが高い対策の実施により、CAUTIの65~70%は予防可能と推計されています9)。とくに近年はカテーテルの適応基準を明確にし、適応となる患者に限り使用し、不要になり次第速やかに抜去するための対策を講じることが推奨されています10)

Plan(計画)

  • CAUTI発生率が2021年度のCAUTI発生率を下回ることを目標とする。

Do(実行)

  • 2011年度 
    • 脳神経外科病棟を対象にCAUTI発生率の定期的な測定とフィードバックを開始
    • 臨床診断意思決定(Clinical Decision Support:CDS) システムを活用したカテーテル抜去リマインダーの送信開始
  • 2012年度 全病棟を対象にCAUTI発生率の定期的な測定とフィードバックを開始
  • 2013年度 カテーテルの不適切な使用および抜去後の安易な再挿入を防ぐために、カテーテルの適応基準と抜去後に自排尿を認めない場合の対応手順を示したフローチャート(膀胱留置カテーテル抜去フロー)を導入
  • 2014年度 銀親水性コーティング膀胱留置カテーテルを採用
  • 2015年度 CAUTI予防策の実施状況を直接観察法で確認するオーディットを開始し、実施率の定期的なフィードバックを開始
  • 2016年度 カテーテルを使用中の全入院患者について、病棟インチャージナースと患者担当医が1日1回、カテーテルの必要性を評価し、不要な場合は速やかに抜去する取り組み(Daily Assessment)を開始
  • 2017年度 適応患者に膀胱留置カテーテルの代替法(残尿測定器を併用した間欠的導尿やコンドーム型採尿器の使用)を推進するとともに、CAUTIのリスクと予防策に関する患者・家族向け啓発資料を入院時に配布する運用を開始
  • 2018年度 排尿ケアチームと共同しながら早期抜去フローを改訂し、研修会を開催
  • 2019年度 研修医オリエンテーションプログラムに膀胱留置カテーテル挿入・管理および間欠的導尿の実技演習を追加
  • 2022年度 CAUTIの要因分析を実施した。また、膀胱留置カテーテル挿入時オーディットに加え、挿入中の管理状況を確認するオーディットを開始

Check(評価)

  • CAUTI発生率の経時的変化を確認するとともに参考値と比較する

Act(改善)

  • CAUTI発生率の定期的な測定とフィードバックを継続
  • CAUTI予防策実施率の定期的な測定とフィードバックを継続
  • 各病棟におけるDaily Assessmentの実施を継続
  • 患者・家族に対するCAUTI予防啓発活動を継続
  • カテーテルの不必要な使用の回避、早期抜去、代替法の活用を推進

考察・改善に向けての今後の予定

感染対策チームが排尿ケアチームと協働し、
カテーテル早期抜去の取り組みを推進

過去の研究によると、カテーテル留置中の入院患者の約20%には、適応がないにもかかわらずカテーテルが留置されており、医師や看護師はカテーテルの存在を失念しやすいことがわかっています11)12)。当院では、感染対策チームが排尿ケアチームと協働しながら、カテーテル早期抜去の取り組みを推進しています。具体的には、挿入時および挿入中に必要性を評価し、カテーテルに代わる排泄手段について助言を行っています。

集中治療室では早期抜去が困難な場合が多く、挿入時や留置中の感染対策を強化する必要があります。その一環として2019年度以降は挿入手技を実施する機会が多い研修医の教育にも力を入れています。2023年度は、カテーテル挿入時および挿入中のオーディットを継続するとともに、各病棟におけるDaily Assessmentを再強化し、膀胱留置カテーテルの適正使用と早期抜去を推進することで発生率の改善を目指します。

参考文献

  • 1)日本環境感染学会 JHAIS委員会 医療器具関連感染サーベイランス 2019年1月~2021年12月データサマリー
    http://www.kankyokansen.org/uploads/uploads/files/jsipc/jhais_device-summary2022.12.pdf
    (Accessed 2023.12.24)
  • 2)Saint S, Chenoweth CE. Biofilms and catheter-associated urinary tract infections. Infect Dis Clin North Am 2003;17:411–432.
  • 3)Rutala WA. Incidence of catheter-associated and non-cath-eter-associated urinary tract infections in a healthcare system. Infect Control Hosp Epidemiol 2011;32:822–823.
  • 4)Warren JW, Platt R, Thomas RJ, et al. Antibiotic irrigation and catheter-associated urinary-tract infections. N Engl J Med. 1978;299(11):570.
  • 5)Haley RW, Hooton TM, Culver DH, et al. Nosocomial infections in U.S. hospitals, 1975-1976: estimated frequency by selected characteristics of patients. Am J Med. 1981;70(4):947.
  • 6)Tambyah PA, Maki DG. Catheter-associated urinary tract infection is rarely symptomatic: a prospective study of 1,497 catheterized patients. Arch Intern Med. 2000;160(5):678.
  • 7)Saint S. Clinical and economic consequences of nosocomial catheter-related bacteriuria. Am J Infect Control. 2000;28(1):68.
  • 8)Leuck AM, Wright D, Ellingson L, et al. Complications of Foley catheters--is infection the greatest risk? J Urol. 2012;187(5):1662-6.
  • 9)Umscheid CA,Mitchell MD,Doshi JA,et al.:Estimating the proportion of healthcare-associated infections that are reasonably preventable and the related mortality and costs.Infect Control Hosp Epidemiol.2011;32(2):101-114.
  • 10)Agency for Healthcare Research and Quality. Appendix K. Infographic Poster on CAUTI Prevention. Content last reviewed October 2015.
    http://www.ahrq.gov/professionals/quality-patient-safety/hais/cauti-tools/impl-guide/implementation-guide-appendix-k.html
    (Accessed 2022.7.3.)
  • 11)Jain P, Parada JP, David A, Smith LG. Overuse of the indwelling urinary tract catheter in hospitalized medical patients. Arch Intern Med. 1995;155(13):1425-9.
  • 12)Saint S, Wiese J, Amory JK, Bernstein ML, Patel UD, Zemencuk JK. Are physicians aware of which of their patients have indwelling urinary catheters? Am J Med. 2000;109(6):476-80.
医療の質
評価側面
Struc­ture Pro­cess Out­come
指標改善
パターン
医療従事者へのリマインド コミュニケーションの改善 監査とフィードバック 医療者への教育 患者への教育 患者へのリマインド 患者へのプロモーション 組織・体制の変更 ルールの変更

36 人工呼吸器関連イベント(VAE)発生率 Ventilator–Associated Events

1.VAE発生率

発生率の単位:1,000人工呼吸器装着日数あたりのVAE発生率

2.IVAC、PVAP発生率

発生率の単位:1,000人工呼吸器装着日数あたりのVAEのうち、IVACとPVAPの発生率

当院値の定義・計算方法

分子
分母と同じ1年間に、集中治療領域において、日本環境感染学会JHAIS(Japanese Healthcare-Associated Infections Surveillance)委員会 医療器具関連感染サーベイランス部門によるVAE(グラフ上:VAC、IVAC、PVAPの合計/グラフ下:IVAC、PVAPの合計)判定基準に合致したVAE件数
分母
1年間の集中治療領域における延べ人工呼吸器使用日数

参考値の定義・計算方法2)

分子
JHAIS委員会医療器具関連感染サーベイランス事業に参加病院のクリティカルケア(第1層)に分類される、2020年1月1日から2022年12月31日までに同委員会のVAE(グラフ上:VAC、IVAC、PVAPの合計/グラフ下:IVAC、PVAPの合計)判定基準に合致したVAE患者数
分母
上記病院の集中治療室における、2020年1月1日~2022年12月31日までの延べ人工呼吸器使用日数

臨床的意義: なぜこの指標が医療の質を示しているのか

人工呼吸器関連イベント(Ventilator-Associated Events : VAE)とは、以前の人工呼吸器関連肺炎(Ventilator-Associated Pneumonia : VAP)に代わる医療関連感染の指標です。

VAEサーベイランスは、人工呼吸器の使用に関連して起こる肺炎を含むイベントであり、VAC(Ventilator-Associated Condition : 人工呼吸器関連状態)、IVAC(Infection-Related Ventilator-Associated Complication : 感染関連性人工呼吸器関連合併症)、PVAP(Possible VAP : 人工呼吸器関連肺炎可能性例)の3層で構成されています。VACは感染症に限らない原因による酸素化悪化を示す状態、IVACはVACに加えて感染症所見を認め、PVAPはIVACに加え肺炎の微生物検査所見を認める状態とも言い換えることができます。

人工呼吸器の装着には次のような感染症のリスクがあります1)

  1. 人工呼吸器を48時間以上装着した患者の約10~20%が肺炎を発症する。
  2. 人工呼吸器を装着し、肺炎を発症した患者は、発症しなかった患者に比べ、死亡リスクが約2倍上昇する。
  3. 肺炎を発症した人工呼吸器装着患者は、集中治療室(ICU)への入室期間が約6日間延長し、1万ドル以上の追加医療費が発生する。

以上から、VAEを予防することにより、重症化や死亡、入院期間の延長などの疾病負荷を軽減することが可能です。

Plan(計画)

  • VAE発生率が日本環境感染学会JHAIS委員会2)の平均VAE(VAC、IVAP、PVAP)発生率未満となることを目標とする

Do(実行)

  • 2011年度 集中治療領域および全館を対象にVAP発生率の測定とフィードバックを開始
  • 2012年度 集中治療領域においてVAP予防バンドル3)を導入
  • 2013年度 集中治療領域においてVAP予防バンドル実施率の測定とフィードバックを開始
  • 2016年度 疾患定義をVAPからVAEに変更
  • 2017年度 人工呼吸器離脱に関する 3 学会合同プロトコル4)の周知およびVAP予防バンドルに準じたアセスメントを強化
  • 2018年度 「気管挿管患者の口腔ケア実践ガイド」5)(当時は学会Draft)に基づき、気管挿管患者の口腔ケアの標準化を図った
  • 2018年度以降 VAEサーベイランス、VAPバンドルの知識に関するe-learningを対象領域に所属する医師・看護師へ、毎年実施

Check(評価)

  • VAE発生率を定期的に確認するとともに参考値と比較する。

Act(改善)

  • VAE発生率の定期的な測定とフィードバック
  • VAP予防バンドル実施率の定期的な測定とフィードバック
  • VAP予防バンドル実施率の改善
  • VAPバンドル内容の見直しによる早期離脱・離床の促進

考察・改善に向けての今後の予定

VAE予防策として、VAE定義の再周知やVAPバンドルの重要項目について運用を見直す

当院では、2015年度まではVAP発生率を、2016年以降はVAE全体と区別して、VAEのうち、VACを除く、IVACとPVAPで構成するVAE発生率もモニタリングしています。2016年度には発生率の上昇を認めたため、2017年度には、VAP予防バンドル3)に加え、人工呼吸器離脱に関する 3 学会合同プロトコル4)を導入、周知しました。その結果、IVACとPVAP発生率は1,000人工呼吸器装着日数あたり2016年度3.6から2017年度1.0に減少しました。

2018年度以降、「気管挿管患者の口腔ケア実践ガイド」5)(当時は学会Draft)に基づき、気管挿管患者の口腔ケアの標準化を図り、VAEサーベイランス・VAPバンドルに関するe-learningを周知の手段として活用しています。IVACとPVAPの発生率は2019年度0.9に減少しましたが、2020年度COVID-19の流行も影響し、VAE発生率が4.2、IVACとPVAPの発生率も1.6と増加、人工呼吸器使用日数も増加しました。2021・2022年度は、VAE発生率は3.9・3.7と横ばいですが、IVACとPVAPの発生率が2.5・3.0と増加し、年々人工呼吸器使用日数も増加、VAE発生率の参考値を上回っています。

引き続き、VAE発生率が増加傾向にある要因を患者層の変化や人工呼吸器管理や集中治療管理の視点から分析し、PICS(Post-Intensive Care Syndrome)予防やABCDEFバンドルに着目した内容を加えて、VAPバンドルを見直し、より早期離脱と早期離床に向けたチーム医療の促進をしていきます。

参考文献

執筆者

田村富美子
副看護部長/ICUナースマネジャー
医療の質
評価側面
Struc­ture Pro­cess Out­come
指標改善
パターン
医療従事者へのリマインド コミュニケーションの改善 監査とフィードバック 医療者への教育 患者への教育 患者へのリマインド 患者へのプロモーション 組織・体制の変更 ルールの変更

37 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)菌血症発生率 MRSA Bacteremia

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)菌血症発生率

2022年度は0(0/138,725)

発生率の単位: 10,000入院患者日数あたり

当院値の定義・計算方法

分子
分母と同じ1年間に、血液培養からMRSAが検出され、米国疾病対策センター(Centers for Disease Control and Prevention :CDC)医療安全ネットワーク(National Healthcare Safety Network :NHSN)の検査で確定した血流感染(Laboratory-confirmed Bloodstream Infection: LCBI)判定基準に合致した患者数
分母
1年間の延べ入院患者日数

臨床的意義: なぜこの指標が医療の質を示しているのか

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は、重症かつ侵襲性の高い皮膚・軟部組織感染、血流感染、肺炎などを引き起こします。メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)に比べてMRSA菌血症を起こした患者の死亡率は約2倍に上昇、入院期間は有意に長期化して医療費も増加すると報告されています1)2)3)

MRSAは汚染された手指や器具を介して接触伝播することから、手指衛生や適切な器具の取り扱いにより、保菌を防ぐことがMRSA菌血症の予防の第一段階です。

また血管内留置カテーテルの使用はMRSA菌血症のリスクを高めることから、血管内留置カテーテルの清潔な挿入操作や管理、早期抜去も予防のために重要です4)

Plan(計画)

  • MRSA菌血症発生率が2021年度を下回ることを目標とする。

Do(実行)

  • 手指衛生実施率のモニタリングとフィードバック
  • MRSA菌血症発生率のモニタリングとフィードバック
  • 中心ラインおよび末梢静脈カテーテル挿入時および挿入中に行うバンドル実施率の定期的な測定とフィードバック

Check(評価)

  • MRSA菌血症発生率の経時的変化を確認

Act(改善)

  • 手指衛生実施率のモニタリングとフィードバックを継続
  • 血流感染予防策実施率のモニタリングとフィードバックを継続し、実施率の低い対策について指導を強化

考察・改善に向けての今後の予定

MRSA菌血症発生率を低く維持するために、
手指衛生や血流感染予防策実施率を把握し、改善

比較対象となるベースラインが国内に存在しないため、参考値はありません。当院の改善状況は発生率の経時的変化を見ながら評価しています。当院におけるMRSA菌血症発生率は、1万入院患者日数あたり1.0件を下回っており、低い値で推移しています。

2022年度より従来の対策に加えて、新たな血管内留置カテーテル関連血流感染予防策を導入しており、MRSA菌血症の予防につながることが期待されます。

参考文献

  • 1)Cosgrove SE, Sakoulas G, Perencevich EN, et al.:Comparison of mortality associated with methicillin-resistant and methicillin-susceptible Staphylococcus aureus bacteremia: a meta-analysis. Clin Infect Dis.2003;36(1):53-59.
  • 2)Cosgrove SE, Qi Y, Kaye KS, et al.: The impact of methicillin resistance in Staphylococcus aureus bacteremia on patient outcomes: mortality, length of stay, and hospital charges. Infect Control Hosp Epidemiol.2005;26(2): 166-174.
  • 3)Nelson RE, Slayton RB, Stevens VW, et al.:Attributable Mortality of Healthcare-Associated Infections Due to Multidrug-Resistant Gram-Negative Bacteria and Methicillin-Resistant Staphylococcus Aureus. Infect Control Hosp Epidemiol. 2017;38(7):848-856.
  • 4)Calfee DP, Salgado CD, Milstone AM, et al.:Strategies to prevent methicillinresistant Staphylococcus aureus transmission and infection in acute care hospitals: 2014 update. Infect Control Hosp Epidemiol. 2014;35(7):772-96.
医療の質
評価側面
Struc­ture Pro­cess Out­come
指標改善
パターン
医療従事者へのリマインド コミュニケーションの改善 監査とフィードバック 医療者への教育 患者への教育 患者へのリマインド 患者へのプロモーション 組織・体制の変更 ルールの変更

38 クロストリディオイデス・ディフィシル トキシン陽性患者発生率 Clostridioides difficile Laboratory-identified Events

クロストリディオイデス・ディフィシル トキシン陽性患者発生率

発生率の単位: 10,000入院患者日数あたり

注)検査法の推移

  • 2011年~2017年5月 トキシンA/Bを検出する迅速診断キットを用いた検査法
  • 2017年6月~2019年10月 上記の検査でGDH(glutamate dehydrogenase: グルタミン酸脱水素酵素)抗原陽性・トキシン陰性となった便検体を培養し、発育したコロニーを用いて再度毒素の検出を行う2段階アルゴリズムを採用
  • 2019年11月~上記のプロトコルにおいて、毒素陰性となった場合に核酸増幅法(PCR)を実施する3段階アルゴリズムを採用

当院値の定義・計算方法1)

分子
分母と同じ1年間に、入院4日目以降または前回退院後28日以内に初めてC.difficile トキシン検査が陽性となった患者数
分母
1年間の延べ入院患者日数

臨床的意義: なぜこの指標が医療の質を示しているのか

クロストリディオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile)は芽胞を形成する細菌であり、トキシンを産生することにより腸管粘膜に傷害と炎症を引き起こします。その結果起こる症状には、1日数回の下痢といった比較的軽症なものから、1日数十回の下痢と脱水、発熱を伴う偽膜性腸炎や、劇症型腸炎など重篤なものまであります。C.difficile は、人の手や器具を介して伝播します。消毒や乾燥に強く、環境表面に数か月間生存することができます。予防策として、手指衛生や有症状患者への接触予防策の実施、高頻度接触環境表面の消毒などを行います。

Plan(計画)

  • C.difficileトキシン陽性患者発生率が前年度を下回ることを目標とする。

Do(実行)

  • 手指衛生のモニタリングと実施率の改善
  • C.difficile感染症が疑われる患者に対する接触予防策の実施
  • C.difficile感染症が疑われる患者病室の高頻度接触環境表面を1日1回以上0.5%(5000ppm)の塩素溶液で消毒
  • C.difficile感染症が疑われる患者が使用した病室環境表面を退院清掃後に紫外線照射
  • 培養検査およびPCR検査を併用しながらC.difficile感染症を把握

Check(評価)

  • C.difficileトキシン陽性患者発生率の経時的変化を確認

Act(改善)

  • Doに記載した対策の確実な実施により、発生率を低率に保つ

考察・改善に向けての今後の予定

培養検査を併用しながらC.difficileトキシン陽性例を把握し、
C .difficileの性質を踏まえた対策を継続

CDIが疑われる患者には、C.difficileが産生するトキシンを検出する迅速診断キットを用いた検査を行うことが一般的です。近年はGDH(glutamate dehydrogenase: グルタミン酸脱水素酵素)抗原とトキシンの両方を同時に検出するキットが広く活用されています。GDH抗原陽性の場合は便中にC.difficileが存在することが示唆され、さらにトキシン陽性の場合は、それが毒素を産生して病原性を発揮していることが強く疑われます。このような迅速診断キットには、トキシンの検出感度が低いという課題があります。したがって、迅速検査結果に基づくトキシン陽性患者発生率をみるだけでは、実際のCDI状況を過小評価する恐れがあります。

この欠点を補うために、当院では2017年6月にGDH抗原陽性かつトキシン陰性の無形便検体にはC.difficile培養検査を併用し、検出されたコロニーを用いて再度トキシン検査を行う2段階アルゴリズムを採用しました。 さらに、2019年11月以降は、培養陰性例にはPCRを実施するアルゴリズムに変更しました。PCR導入以降の発生率を見ますと、2020年度に上昇したものの、2021年度は減少に転じ、2022年度も同水準となりました。高い手指衛生実施率の維持が、要因の一つと推測されます。当院では、今後もCDI予防のために、手指衛生の推進や衛生的な環境の管理に取り組んで参ります。

参考文献

医療の質
評価側面
Struc­ture Pro­cess Out­come
指標改善
パターン
医療従事者へのリマインド コミュニケーションの改善 監査とフィードバック 医療者への教育 患者への教育 患者へのリマインド 患者へのプロモーション 組織・体制の変更 ルールの変更

39 手指衛生実施率 Hand Hygiene

病棟

方法について
2011年度:担当者による直接観察法
2012年度:ホームビデオカメラによる直接観察法
2013年度以降:常設ネットワークカメラによる直接観察法

病棟以外*

外来、検査部門、手術部門、透析部門、リハビリテーション部門、サテライトクリニックを含む

方法について
管理者に任命された担当者による直接観察法

当院値の定義・計算方法

分子
病棟において手衛生を実施した機会数
分母
病棟において手指衛生を実施する必要があった機会数

各病棟を四半期に2回、1回につき平均60分間モニタリングした際の機会数の合計

参考値の定義・計算方法1)

分子
手指衛生を実施した機会数
分母
手指衛生を実施する必要がある機会数

臨床的意義: なぜこの指標が医療の質を示しているのか

世界保健機構(WHO)や米国疾病対策センター(CDC)は、医療関連感染(HAI)予防ガイドラインにおいて、手指衛生の実施を強く推奨しています1)2)

その根拠となっているのは、多面的介入により手指衛生実施率が上昇した後、感染症や保菌の発生率の減少を認めた観察研究です。観察研究とはいえ、同様の現象が国内外の多数の病院から報告されていることや、手指衛生の実施により手指の細菌数が減少するとHAIも減少するという理論が科学的常識と矛盾しないことから、手指衛生の実施はもっとも基本的かつ重要なHAI予防策に位置付けられています。

Plan(計画)

  • 手指衛生実施率の目標値を85%とする。

Do(実行)

  • 2011年度 QIセンター感染管理室スタッフによる直接観察法によるモニタリングを開始
  • 2012年度 QIセンター感染管理室スタッフによる家庭用ビデオカメラを用いたモニタリングに変更
  • 2013年度 QIセンター感染管理室スタッフによる常設ネットワークカメラを用いたモニタリングに変更
  • 2014年度 病棟以外の部門における直接観察法によるモニタリングを追加
  • 2015年度 職員に手指衛生を促す声かけを実施。患者に依頼するステッカーを病室や診察室に貼付
  • 2016年度 アルコール過敏症職員が使用する非アルコール性手指消毒薬を導入
  • 2017年度 一部の部門、職員において業績評価の一指標に手指衛生実施率を採用
  • 2019年度 病院全体で取り組む重点課題の一つに手指衛生実施率を選択し、目標値を85%に設定

Check(評価)

  • 手指衛生実施率の経時的変化を確認

Act(改善)

  • 以下を継続 
    • 手指衛生実施率のモニタリングとフィードバック
    • 実施率の低い部門および職員の特定と個別指導
    • 実施率が高い部門に報酬として表彰状及びコーヒー券の贈呈
    • 各部門担当者によるモニタリングと改善
    • 各部門のQuality Improvement Board(質改善掲示板)への手指衛生実施率の掲示

考察・改善に向けての今後の予定

直接観察法によるモニタリングや個別指導などを実施。
部門内の改善活動の支援が病院全体の実施率改善へ

世界各国の病院から報告される医療従事者の手指衛生実施率は平均約40%と、決して高くありません1)。実施率を評価するために、WHOは訓練を受けた担当者が医療従事者の行動を直接観察する手法を推奨しています。この評価法の長所は、適切なタイミングや方法で手指衛生が行われているかを、実際に目で見て確認できる点です。主な短所には、手指衛生を要するすべての機会のうち数%しか観察できないため、施設の全体像が把握しづらいこと、そしてホーソン効果(他人から監視されていると思うことが望ましい方に行動が変化する)により起こる一時的な過剰評価が挙げられます。

当院では、2011年度まで感染対策担当者が臨床に出向いて直接観察を実施していましたが、2012年度からは病棟の通路などに一定時間、三脚で家庭用ビデオカメラを設置して実施率を確認する方法に変更しました。これに伴い、実施率は8ポイント減少しましたが、観察場面が増加し、以前よりも正確に現状を把握できるようになったと考えました。2013年度からは、病棟の天井に小型のネットワークカメラを設置し、全病棟の手指衛生実施状況が1台のコンピュータで確認できるようになりました。動画は約1週間分保存されるため、さまざまな時間帯における実施率を観察することができます。2014年度からは、病棟以外の部門や事業体において任命された担当者が、直接観察法によるモニタリングを実施しています。

手指衛生実施率は、患者エリアに設置されたQuality Improvement Board(質改善掲示板)に掲示し、その部署を訪れる誰もが最新の実施率を確認できるようになっています。また、部門と職種のランキングも全職員に公表しています。手指衛生実施率の向上には、課題や改善状況を評価するために比較可能なデータをフィードバックすることが推奨されているためです3)。2018年度以降の実施率は減少傾向にありましたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行もあり、2020年度には持ち直し、2022年度には過去最高となりました。

参考文献

  • 1)Centers for Disease Control and Prevention: Guideline for Hand Hygiene in Health-Care Settings, 2002. MMWR 2002; 51: RR-16.
    http://www.cdc.gov/handhygiene/guidelines.html
    (Accessed 2023.12.24)
  • 2)WHO. WHO Guidelines on Hand Hygiene in Health Care.
    http://www.who.int/publications/i/item/9789241597906
    (Accessed 2023.12.24)
  • 3)Zingg W, Holmes A, Dettenkofer M, et al. Hospital organisation, management, and structure for prevention of health-care-associated infection: a systematic review and expert consensus. Lancet Infect Dis. 15(2);2015:212-24
医療の質
評価側面
Struc­ture Pro­cess Out­come
指標改善
パターン
医療従事者へのリマインド コミュニケーションの改善 監査とフィードバック 医療者への教育 患者への教育 患者へのリマインド 患者へのプロモーション 組織・体制の変更 ルールの変更

40 手術部位感染(SSI)発生率 Surgical Site Infections

手術部位感染(SSI)発生率

乳房切除術

帝王切開術

卵巣手術

腹式子宮摘出術

ヘルニア手術

胆嚢手術

虫垂の手術

開頭術

前立腺手術

椎弓切除術

大腸手術

心臓手術

骨折の観血的整復術

胸部手術

腹部手術

人工股関節

人工膝関節

腎臓手術

透析のためのシャント

当院値の定義・計算方法

分子
厚生労働省院内感染対策サーベイランス(Japan Nosocomial Infections Surveillance: JANIS)事業のSSI判定基準に合致した患者数
分母
1年間に40例以上実施された手術手技別患者数

参考値の定義・計算方法8)

分子
JANIS事業参加病院において、2022年1月~12月期に同事業のSSI判定基準に合致した手術手技別患者数
分母
上記の病院および期間における手術手技別患者数

臨床的意義: なぜこの指標が医療の質を示しているのか

手術部位感染(SSI)とは、創部や手術中に操作した筋層や臓器に起こる感染症を指します。

SSIは外科患者の医療関連感染ではもっとも多く38%を占め、手術患者の24人に1人の割合で発生します1)。また、1件のSSIにより入院期間が7~10日間延長し、術後に死亡する患者の75%においてSSIが直接的な死因となっています2)3)。一方で、エビデンスレベルの高い予防策の実施により、SSIの約55%は予防可能であるといわれています4)

Plan(計画)

  • SSI発生率が厚生労働省JANIS事業の2022年度平均発生率未満となることを目標とする。

Do(実行)

  • 2007年度 大腸手術を対象にサーベイランスを開始し、閉腹時の感染対策(手袋交換、洗浄用の生理食塩水の増量、清潔な閉腹セットの使用など)を導入
  • 2011年度
    • 心臓血管外科手術を対象に術後血糖値のコントロール(麻酔終了後18~24時間の血糖値が≦180mg/dL)をQI指標としてモニタリング開始
    • 皮膚切開前1時間以内に予防的抗菌薬投与を開始した手術の割合をQI指標としてモニタリング開始
  • 2012年度 眼科を除く全手術手技について、SSI発生率の定期的な測定とフィードバックを開始
  • 2014年度
    • 皮膚消毒薬を10%ポビドンヨードから1%クロルヘキシジンアルコールに変更
    • 乳房再建術を対象に、術前の黄色ブドウ球菌鼻腔培養検査と除菌、術前日と当日のクロルヘキシジンシャワー浴を開始
  • 2015年度 心臓血管外科手術(開胸術)、整形外科手術(人工股関節および膝関節手術、椎弓切除術の一部)、および人工物を使用する乳腺外科手術を対象に術前の黄色ブドウ球菌鼻腔培養検査と除菌、術前日と当日のクロルヘキシジンシャワー浴を開始
  • 2016年度 低体温予防を目的として温風式加温装置を導入
  • 2017年度
    • 緊急的な心臓血管外科手術(開胸術)を受ける患者に対しムピロシン軟膏の鼻腔内塗布を開始
    • 最新の知見に基づき術前予防抗菌薬に関するマニュアルを改訂
  • 2018年度 執刀医へのデータのフィードバックを継続
  • 2019年度 周術期の抗菌薬予防投与について抗菌薬適正使用支援チームがモニタリングを強化
  • 2022年度 循環器・心臓血管外科ICUにおいてクロルヘキシジンを用いた全身清拭を開始

Check(評価)

  • SSI発生率の経時的変化を確認するとともに参考値と比較

Act(改善)

  • SSI発生率が参考値を超える手術手技について要因を検討するとともに、近年の新しいSSIガイドラインを参考に、新たな対策の導入を検討5)-7)

考察・改善に向けての今後の予定

最新のSSI予防ガイドラインに基づき担当部門と継続的にSSI対策を検討

2021年度は多くの手術手技で、参考値と同等か低い発生率となっていますが、参考値を上回る手術手技については、最新のSSI予防ガイドラインを参考にしながら担当部門と予防策を検討しています5)6)7)

とくに人工埋め込み物(インプラント)を使用する手術では、SSIにより患者のQOLが著しく低下する場合があるため、積極的に改善を進めています。例えば、心臓血管外科手術、整形外科手術、乳房手術のなかで、インプラントを使用する術式を対象に、術前の鼻腔培養検査とムピロシン軟膏を用いた除菌を導入してからは、いずれの術式でもSSI発生率の減少を認めています。さらに、抗菌薬の術前予防投与は、当院ではほぼ全例で皮膚切開前1時間以内に行われていますが、2017年度はマニュアルを改訂し、用量や術中追加投与のタイミング、MRSA保菌者に対する抗MRSA薬の併用などをより明確にし、周知しました。2018年度以降は発生率の推移をみながら、執刀医へのデータのフィードバックを継続しています。また、2019年度以降は抗菌薬適正使用支援チームが、術前および術中の適正な抗菌薬予防投与についてモニタリングを強化しています。発生率が参照値を上回る術式については、担当診療科と要因および予防策について協議を継続しています。

参考文献

  • 1)The Society for Hospital Epidemiology of America, The Association for Practitioners in Infection Control, The Centers for Disease Control, The Surgical Infection Society. Consensus paper on the surveillance of surgical wound infections. Infect Control Hosp Epidemiol. 1992; 13(10): 599-605.
  • 2)Boyce JM, Potter-Bynoe G, Dziobek L: Hospital reimbursement patterns among patients with surgical wound infections following open heart surgery. Infect Control Hosp Epidemiol. 1990; 11(2): 89-93.
  • 3)Poulsen KB, Bremmelgaard A, Sorensen AI, et al.: Estimated costs of postoperative wound infections. A case-control study of marginal hospital and social security costs. Epidemiol Infect. 1994; 113(2): 283-295.
  • 4)Umscheid CA, Mitchell MD, Doshi JA, et al.: Estimating the proportion of healthcare-associated infections that are reasonably preventable and the related mortality and costs. Infect Control Hosp Epidemiol. 2011; 32(2): 101-114.
  • 5)Allegranzi B, Bischoff P, de Jonge S, et al.:New WHO recommendations on preoperative measures for surgical site infection prevention: an evidencebased global perspective. Lancet Infect Dis. 2016 ;16(12):e276-287.
  • 6)Berríos-Torres SI, Umscheid CA, Bratzler DW, et al.:Centers for Disease Control and Prevention Guideline for the Prevention of Surgical Site Infection, 2017. JAMA Surg. 2017;152(8):784-791.
  • 7)Ban KA, Minei JP, Laronga C, et al.:American College of Surgeons and Surgical Infection Society: Surgical Site Infection Guidelines, 2016 Update. J Am Coll Surg. 2017;224(1):59-74.
  • 8)厚生労働省 院内感染対策サーベイランス事業 SSI部門 公開情報2022年年報
    https://janis.mhlw.go.jp/report/ssi.html
    (Accessed 2023.12.24)
医療の質
評価側面
Struc­ture Pro­cess Out­come
指標改善
パターン
医療従事者へのリマインド コミュニケーションの改善 監査とフィードバック 医療者への教育 患者への教育 患者へのリマインド 患者へのプロモーション 組織・体制の変更 ルールの変更
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