第9章心血管Cardiovascular
26 ST上昇型急性心筋梗塞の患者で病院到着から経皮的冠動脈インターベンション(PCI)までの所要時間が90分以内の患者の割合 Primary PCI received within 90 minutes of hospital arrival
ST上昇型急性心筋梗塞の患者で病院到着から経皮的冠動脈インターベンション(PCI)までの所要時間が90分以内の患者の割合
当院値の定義・計算方法
- 分子
- 分母のうち、来院からPCIまでの所要時間(分)が90分以内の患者数
- 分母
- 救急部を受診し、24時間以内に緊急PCIを実施した急性心筋梗塞(ST上昇型)患者数
参考値(米国JC1)・日本2))の定義・計算方法3)4)
- 分子
- AMI patients whose time from hospital arrival to primary PCI is 90 minutes or less
- 分母
- AMI patients with ST-elevation or LBBB on ECG who received primary PCI
臨床的意義: なぜこの指標が医療の質を示しているのか
ST上昇型急性心筋梗塞(STEMI)の治療には、発症後可能な限り早期に再灌流療法(閉塞した冠動脈の血流を再開させる治療)を行うことが、生命予後の改善に重要です。現在、発症後12時間以内は早期再灌流療法の適応とされ、主にバルーンやステントを使用したPCI*が行われます。また、血栓吸引療法を併用する場合もあります。
病院到着(Door)からPCI(Balloon)までの時間は、急性心筋梗塞と診断されてから緊急心臓カテーテル検査と治療のためのスタッフならびにカテーテル室の準備、さらにPCIの手技までを含む複合的な時間であり、Door-to-Balloon時間と呼ばれます。具体的にはDoor-to-Balloon時間が90分以内であること、あるいは90分以内に再灌流療法が施行された患者の割合が50%以上という指標が用いられます4)5)6)。
* PCI(percutaneous coronary intervention:経皮的冠動脈形成術)
Plan(計画)
- 2008.5 心カテテンプレートの運用開始
- 2008.5 各プロセスを現場の感覚により近いものに決定
- 2010.3 継続的なモニタリングによる数値改善のため、年1回のフォローに変更
- 2013.5 数値悪化のため、現状を心血管センター運営会議へフィードバック
Do(実行)
- 2013.6 救急部と循環器内科とのカンファレンスを再度開始
- 2013.6 救急外来での胸部X線撮像中止
- 2013.6 救急外来での尿道カテーテル挿入中止
Check(評価)
- 2008.6 各プロセスの所要時間を患者ごとに分析
- 2013.7 改善策実施後の効果を確認し、3か月に一度のモニタリングの変更
Act(改善)
- 2008.10 検査結果が出る前に循環器医師を呼ぶ運用を決定
- 2008.10 患者来院時間、循環器医師call時間、循環器医師ER到着時間のチャート記載を依頼
- モニタリングの継続
- 救急部循環器カンファレンスで月例データを定期的に共有
考察・改善に向けての今後の予定
Door - to - Balloon時間が保険点数に反映。
臨床現場として医療の質をさらに高める努力を継続
以前から救急部(ER)と循環器チームでのカンファレンスは行われていましたが、当初は数値に関してしっかり観察できていませんでした。2011年・2012年の数値の低下に危機感を感じ、再度ERとのカンファレンス(毎月開催)で改善方法がないか検討しました。ERからの入院時にルーチンで行われていた胸部X線写真と尿道カテーテルの挿入を必要時のみ施行するように決定したことなどを受けて、心電図施行後からのカテーテル室への入室時間は約10分の短縮が可能となりました。2013年以降、90分以内の到達件数がようやく70%台まで改善しました。
その後、2018年度には達成率89.4%まで改善しましたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の蔓延に伴う感染対策が影響したためか、2019年度・2020年度と90分以内の達成率は一旦約70%まで落ち込みました。コロナ渦から脱したことも受けて、2022年度は数年ぶりに80%を超える達成率となりました。個別の未達成の要因としては、以前までのデータと同様、特に休日・夜間帯の症例でカテーテル検査開始までに時間を要していることが分かっています。引き続きERとも協力しながら個々の症例の目標時間を達成できなかった原因を振り返り、毎月のカンファレンスにてフィードバックを継続していく予定です。
また、現在Door - to - Balloon時間は保険点数にも反映され、医療の質を診療報酬に還元するという1つの試金石となる指標となりました。今後もさらに臨床現場から医療の質を高める努力を継続していく必要性を実感しています。
参考文献
- 1)America’s Hospitals: Improving Quality and Safety; The Joint Commission’s Annual Report 2015.
- 2)日本心血管インターベンション治療学会(Japanese Association of Cardiovascular Intervention and Therapeutics:CVIT), J-PCIレジストリー 2018年報告
- 3)The Joint Commission; Specifications Manual for National Hospital Inpatient Quality Measures, Version 4.3b AMI-8a Primary PCI Received Within 90 Minutes of Hospital Arrival.
http://www.jointcommission.org/assets/1/6/HIQR_Jan2014_v4_3b.zip
(2015.06.04 available) - 4)The Joint Commission; measurement, Cardiac Care Measures, Chart Abstracted Measures for Certification, CHAC-2 Primary PCI ≤ 90 minutes
https://www.jointcommission.org/measurement/measures/cardiac-care/
(2024.05.12 available) - 5)Antman EM, et al.: ACC/AHA guidelines for the management of patients with ST-elevation myocardial infarction. Circulation. 2004; 110: 82-292.
- 6)Flynn A, et al.: Trends in door-to-balloon time and mortality in patients with STEMI undergoing PPCI. ArchIntern Med. 2010; 170: 1842-1849.
執筆者
- 医療の質
評価側面 - Structure Process Outcome
- 指標改善
パターン - 医療従事者へのリマインド コミュニケーションの改善 監査とフィードバック 医療者への教育 患者への教育 患者へのリマインド 患者へのプロモーション 組織・体制の変更 ルールの変更
27 急性心筋梗塞患者における病院到着前後24時間以内の処方率(アスピリン、β-遮断薬) Aspirin and Beta-blocker at arrival for heart attack patients
急性心筋梗塞患者における病院到着前後24時間以内のアスピリン処方率
当院値の定義・計算方法
- 分子
- 病院到着前後24時間以内にアスピリンが処方されている患者数
- 分母
- 急性心筋梗塞の診断で入院し生存退院した患者数
参考値の定義・計算方法1)2)
- 分子
- AMI patients who received aspirin within 24 hours before or after hospital arrival
- 分母
- AMI patients
急性心筋梗塞患者における病院到着後24時間以内のβ-遮断薬処方率
当院値の定義・計算方法
- 分子
- 病院到着後24時間以内にβ-遮断薬が処方されている患者数
- 分母
- 急性心筋梗塞の診断で入院し生存退院した患者数
臨床的意義: なぜこの指標が医療の質を示しているのか
急性心筋梗塞において、血小板による血管閉塞および心筋との需要供給関係の破綻、心筋のリモデリングが問題であり、過去の報告から抗血小板薬およびβ-遮断薬の投与が必須であることはいうまでもありません。
過去の欧米のガイドラインにおいても、急性期におけるアスピリンおよびβ-遮断薬の処方は、クラスⅠとなっています。これらは心筋梗塞量の減少やイベント抑制にかかわっているため、医療の質を示すには適した指標と考えられます。
Plan(計画)
- 2012 America’s Hospitals: The Joint Commission’s Annual Reportに準拠した定義で測定開始
Do(実行)
- 2013 入院当日からβ-遮断薬の処方開始
- 2014 急性冠症候群で、効果発現作用の高い早期作用のプラスグレル使用開始
(従来はアスピリンに加えてクロピドグレルを使用)
Check(評価)
- 年1回のデータ収集にて値確認
Act(改善)
- モニタリング継続
考察・改善に向けての今後の予定
β-遮断薬の処方では早期介入の必要性を共有することが重要。
アスピリンは来院時に処方し退院時も同様に処方するため、来院時処方率および退院時処方率はほぼ同率で、かなり高い水準を維持しています。当院のアスピリン処方率は欧米のデータと比較しても遜色ありません。
24時間以内のβ-遮断薬処方率についても、2011年度以降は概ね80-90%と高い水準を維持しています。未達成の背景には、β-遮断薬の処方に禁忌とされる心原性ショックや房室ブロックなどの他に、患者が超高齢の場合や血圧低値などが挙げられます。2022年度に関しては76.9%とここ数年で最も低い達成率となっており、未処方例の30%程度には明確な禁忌となる要素は確認できませんでした。これからも引き続き早期介入の重要性を周知することにより達成率の向上を目指します。
参考文献
- 1)America’s Hospitals: Improving Quality and Safety; The Joint Commission’s Annual Report 2015.
- 2)The Joint Commission; Specifications Manual for National Hospital Inpatient Quality Measures, Version 4.3b AMI-1 Aspirin at Arrival.
http://www.jointcommission.org/assets/1/6/HIQR_Jan2014_v4_3b.zip
(2015.06.04 available)
執筆者
- 医療の質
評価側面 - Structure Process Outcome
- 指標改善
パターン - 医療従事者へのリマインド コミュニケーションの改善 監査とフィードバック 医療者への教育 患者への教育 患者へのリマインド 患者へのプロモーション 組織・体制の変更 ルールの変更
28 左室機能が悪い急性心筋梗塞患者へのACE-I/ARB 退院時処方率 ACE-I or ARB for heart attack patients with left ventricular systolic dysfunctoin (LVSD)
左室機能が悪い急性心筋梗塞患者へのACE-I/ARB 退院時処方率
当院値の定義・計算方法
- 分子
- 退院時にACE-I/ARBが処方されている患者数
- 分母
- 左室機能が悪い急性心筋梗塞入院患者数(生存退院)
参考値の定義・計算方法1)
- 分子
- AMI patients who are prescribed an ACE-I or ARB at hospital discharge
- 分母
- AMI patients with LVSD
臨床的意義: なぜこの指標が医療の質を示しているのか
ACE-I(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)やARB(アンジオテンシン受容体拮抗薬)はレニン-アンジオテンシン系の抑制に非常に重要な薬で、単なる血圧コントロールの薬ではなく、過去の報告から心筋梗塞患者の長期予後の改善を見込める薬であるとされています。
とくに、左室機能が低下している急性心筋梗塞患者においてはリモデリングの抑制効果も認められており、欧米のガイドラインでも指標として用いられています 2)3)。したがって、医療の質を測るには適切な指標と考えています。
Plan(計画)
- 2012 AMI-3に準拠した定義で測定開始4)
Do(実行)
- 2010 クリニカルパスを用いての処方漏れをなくすキャンペーンを実施(β-遮断薬を含む)
- 2012 急性心筋梗塞でのカテーテル治療においても橈骨動脈アプローチに変更
- 2012 腎障害患者での造影剤腎症予防プロトコルの早期導入
- 2013 腎臓内科との相談
- 2013 全病院での造影剤腎症予防プロトコルの導入
Check(評価)
- 年1回のデータ収集にて値確認
Act(改善)
- モニタリング継続
考察・改善に向けての今後の予定
指標値は概ね達成
引き続き積極的な処方を継続
当院でも積極的にこれらの薬剤の処方を行っており、ほぼ全例で実行出来ています。全件カルテレビューを行っていますが、やはり血圧低値や急性腎障害、その中でも造影剤腎症を併発した患者において、これらの薬剤が退院時処方に含まれない場合があります。急性腎障害に関しては例外的な対応が必要と考えています。単に指標値自体の改善より、母集団の選定を十分慎重に考慮したいと考えており、現時点でそのような急性腎障害の患者を除外する予定はありません。
また、当院では循環器内科と腎臓内科で連絡を密に行い、造影剤腎症においても、両科で「ACE-I/ARBともに禁忌ではないが慎重に判断する」としています。また、退院時に処方されていない場合には、腎機能が落ち着いた外来での投与開始を心がけています。心筋梗塞の二次予防という観点から意識を高く持ち、今後も継続していきたいと考えています。
参考文献
- 1)America’s Hospitals: Improving Quality and Safety; The Joint Commission’s Annual Report 2015.
- 2)krumholz HM,et al.:ACC/AHA Clinical Performance Measures for Adults With ST-Elevation and Non ST-Elevation Myocardial Infarction. Circulation. 2006, 113(5): 732-761.
- 3)The Joint Commission; measurement, Cardiac Care Measures, Chart Abstracted Measures for Certification, Comprehensive Heart Attack Center (CHAC), CHAC-5 ACE-Inhibitor or angiotensin receptor blocker (ARB) for LVSD at discharge
https://www.jointcommission.org/measurement/measures/cardiac-care/
(2024.05.12 available) - 4)The Joint Commission; Specifications Manual for National Hospital Inpatient Quality Measures, Version 4.3b AMI‐3 ACEI or ARB for LVSD.
http://www.jointcommission.org/assets/1/6/HIQR_Jan2014_v4_3b.zip
(2015.06.04 available)
執筆者
- 医療の質
評価側面 - Structure Process Outcome
- 指標改善
パターン - 医療従事者へのリマインド コミュニケーションの改善 監査とフィードバック 医療者への教育 患者への教育 患者へのリマインド 患者へのプロモーション 組織・体制の変更 ルールの変更
29 急性心筋梗塞患者における退院時処方率(アスピリン、β- 遮断薬、ACE-I/ARB、スタチン) Aspirin, Beta-blocker, ACE-I or ARB, and Statin at discharge for heart attack patients
アスピリン
β-遮断薬
ACEI/ARB
スタチン
当院値の定義・計算方法
- 分子
- 退院時にアスピリン、β-遮断薬、ACEI/ARB、スタチンが処方されている患者数
- 分母
- 急性心筋梗塞の診断で入院し生存退院した患者数
参考値の定義・計算方法1)2)3)4)
- 分子
- AMI patients who are prescribed aspirin at hospital discharge
AMI patients who are prescribed a beta-blocker at hospital discharge
AMI patients who are prescribed ACE-I or ARB at hospital discharge
AMI patients who are prescribed a statin medication at hospital discharge
- 分母
- AMI patients
臨床的意義: なぜこの指標が医療の質を示しているのか
近年の急性心筋梗塞の死亡率の減少において、カテーテル治療(PCI:percutaneous coronary intervention:経皮的冠動脈形成術)の役割が非常に大きかったことは周知の事実です。わが国において、急性心筋梗塞(とくにST上昇型急性心筋梗塞)に対してカテーテル治療(PCI)を行うことは、すでに標準化されているといえます。
しかし、治療はそこで終わりではありません。次に必要となるのは、心筋梗塞を再発させず心筋梗塞に関連した心血管病での死亡などを防ぐ二次予防です5)6)。二次予防に必須とされる薬物治療を退院時までに導入することはガイドラインでも推奨されており、すでに海外でも医療の質の項目にも取り入れられています。処方率そのものが医療の質を表すと考えられています。
当院ではこれら二次予防薬の処方は比較的高い水準を維持できていますが、全指標を通じて完全とは言えません。また2023年より処方の有無に加えて、これらの薬剤が退院後に適切に調整されているかどうか(※心筋梗塞の二次予防として目標LDLを達成できているか否か)についても循環器内科で個別にフィードバックを開始しました。
参考文献
- 1)America’s Hospitals: Improving Quality and Safety; The Joint Commission’s Annual Report 2015.
- 2)The Joint Commission; Specifications Manual for National Hospital Inpatient Quality Measures, Version 4.3b AMI-2 Aspirin Prescribed at Discharge.
http://www.jointcommission.org/assets/1/6/HIQR_Jan2014_v4_3b.zip
(2015.06.04 available) - 3)The Joint Commission; Specifications Manual for National Hospital Inpatient Quality Measures, Version 4.3b AMI-5 Beta-Blocker Prescribed at Discharge.
http://www.jointcommission.org/assets/1/6/HIQR_Jan2014_v4_3b.zip
(2015.06.04 available) - 4)The Joint Commission; Specifications Manual for National Hospital Inpatient Quality Measures, Version 4.3b AMI-10 Statin Prescribed at Discharge.
http://www.jointcommission.org/assets/1/6/HIQR_Jan2014_v4_3b.zip
(2015.06.04 available) - 5)日本循環器学会. 循環器病ガイドラインシリーズ:急性冠症候群診療ガイドライン(2018 年改訂版) JCS 2018 Guideline on Diagnosis and Treatment of Acute Coronary Syndrome
(https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2018_kimura.pdf) - 6)日本循環器学会. 循環器病ガイドラインシリーズ:2020 年 JCS ガイドライン フォーカスアップデート版 冠動脈疾患患者における抗血栓療法 JCS 2020 Guidelines Focused Update on Antithrombotic Therapy in Patients with Coronary Artery Disease
(https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/04/JCS2020_Kimura_Nakamura.pdf) - 7)Hector MM, Christopher PC, Xin Z, et al.: Quality of acute myocardial infarction care and outcomes in 33, 997 patients aged 80 years or older: Findings from Get With The Guidelines-Coronary Artery Disease (GWTG-CAD).
執筆者
- 医療の質
評価側面 - Structure Process Outcome
- 指標改善
パターン - 医療従事者へのリマインド コミュニケーションの改善 監査とフィードバック 医療者への教育 患者への教育 患者へのリマインド 患者へのプロモーション 組織・体制の変更 ルールの変更
30 心不全入院患者における左室機能評価 Evaluation of Left ventricular function for heart failure patients
心不全入院患者における左室機能評価
当院値の定義・計算方法
- 分子
- 入院前3か月から退院までに、心エコー検査を実施した患者数、または、入院前3か月から退院までに、退院後3か月内の心エコー検査の依頼をオーダーしている患者数
- 分母
- 心不全入院患者数
- 分母除外
- 死亡退院患者、在院日数が120日以上の患者、(2014年までは慢性心不全やその入院で症状がないものをチャートレビューにて除外)
参考値の定義・計算方法1)
- 分子
- Heart failure patients with documentation in the hospital record that LVS function was evaluated before arrival, during hospitalization, or is planned for after discharge
- 分母
- Heart failure patients
臨床的意義: なぜこの指標が医療の質を示しているのか
循環器領域では医療の質を示す指標として米国心臓協会らによりPerformance measures(パフォーマンス指標)が用意されており、心不全も例外ではありません2)。
心不全患者の左室収縮機能を評価するのは、エビデンスに基づく心不全治療を行うために必要不可欠であるため、本指標も心不全のパフォーマンス指標の1つとして挙げられています。
左室収縮機能が低下した心不全患者における治療でガイドライン上クラスⅠ推奨とされている薬剤は、ACE-I/ARB、β - 遮断薬、MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)、および新規薬剤としてARNI(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)、SGLT2阻害薬があり、これら4系統の薬剤は左室駆出率(Ejection fraction:EF)の低下している患者で有効とされています3)4)5)。そのため、左室収縮機能を確認することは、エビデンスに基づく治療を行うための最低限の必要事項であり、医療の質を示す1つの指標であることは妥当です。
Plan(計画)
- 2014 America’s Hospitals: The Joint Commission’s Annual Reportに準拠した定義で測定開始1)
Do(実行)
- 2010 心不全クリニカルパスに心エコー検査を導入
Check(評価)
- 3か月に1回のデータ収集にて値確認、心血管センター運営会議にて報告
Act(改善)
- モニタリング継続
考察・改善に向けての今後の予定
クリニカルパスでの継続的な評価、心エコー検査時の
測定結果の記録、入院後早期の評価を周知徹底
当院でも、正式な記録が残る形での心機能評価を行っていない患者が散見されました。そのような患者においても、ほとんどの場合入院時に医師による心エコー検査を行っています。しかし、これは医師の自由意思による行為であり標準化されておらず、当院でも施行した記録は一部電子カルテ上に残るものの、記載漏れがあることや、測定項目などのバリエーションが多く、統一されていないことは大きな問題です。
当院では2010年にクリニカルパスを作成し、医師間での差をなくすことで、できる限りエビデンスに基づく管理・治療を最低限行える仕組みを作成しました。心エコー検査もその1つです。その影響か、2012年度からは明らかに数値は改善しています。本指標は比較的高い水準で推移していますが、理想的には100%を目指していくべき指標と考えています。今後も引き続き医療者間で周知徹底を進めていきます。
参考文献
- 1)The Joint Commission; Specifications Manual for National Hospital Inpatient Quality Measures, Version 4.3b HF-2 Evaluation of LVS Function.
http://www.jointcommission.org/assets/1/6/HIQR_Jan2014_v4_3b.zip
(2015.06.04 available) - 2)Bonow RO, Ganiats TG, Beam CT, Blake K, Casey DE Jr, Goodlin SJ, Grady KL, Hundley RF, Jessup M, Lynn TE, Masoudi FA, Nilasena D, Pina IL, Rockswold PD, Sadwin LB, Sikkema JD, Sincak CA, Spertus J, Torcson PJ, Torres E, Williams MV, Wong JB:ACCF/AHA/AMA-PCPI 2011 performance measures for adults with heart failure: a report of the American College of Cardiology Foundation/ American Heart Association Task Force on Performance Measures and the American Medical Association-Physician Consortium for Performance Improvement.Circulation.2012;125(19):2382-2401.
- 3)Paul A. et al. 2022 AHA/ACC/HFSA Guideline for the Management of Heart Failure: A Report of the American College of Cardiology/American Heart Association Joint Committee on Clinical Practice Guidelines. Circulation. 2022;145:e895–e1032.
- 4)日本循環器学会:急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版). Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure (JCS 2017/JHFS 2017)
- 5)日本循環器学会:急性・慢性心不全診療ガイドライン(2021年フォーカスアップデート版). JCS/JHFS 2021 Guideline Focused Update on Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure.
執筆者
- 医療の質
評価側面 - Structure Process Outcome
- 指標改善
パターン - 医療従事者へのリマインド コミュニケーションの改善 監査とフィードバック 医療者への教育 患者への教育 患者へのリマインド 患者へのプロモーション 組織・体制の変更 ルールの変更
31 左室機能が悪い心不全入院患者へのβ- 遮断薬・ACE-I/ARB/ARNI・ARNI・MRA・ SGLT2阻害薬処方率・処方率 Beta-blocker, ACE-I or ARB or ARNI, MRA, and SGLT2i for heart failure patients with LVSD
β-遮断薬
β-遮断薬 (LVEF<40%)
当院値の定義・計算方法
- 分子
- 退院後1年以内にβ-遮断薬が処方された患者数
- 分母
- 18歳以上の左室機能が悪い(=LVEFが40%未満)心不全入院患者数
- 分母除外
- 死亡退院患者、慢性心不全やその入院で症状がないもの
参考値の定義・計算方法1)2)3)
- 分子
- Patients who were prescribed beta-blocker therapy either within a 12-month period when seen in the outpatient setting or at hospital discharge
- 分母
- All patients aged 18 years and older with a diagnosis of heart failure with a current or prior LVEF < 40%
ACE-I (ACE阻害薬)/ARB (アンジオテンシン受容体拮抗薬)/ARNI (アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)
ACE-I (ACE阻害薬)/ARB (アンジオテンシン受容体拮抗薬)/ARNI (アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬) (LVEF<40%)
当院値の定義・計算方法
- 分子
- 入院中にACE-I/ARB/ARNI が処方された患者数
- 分母
- 18歳以上の左室機能が悪い(=LVEFが40%未満)心不全入院患者数
- 分母除外
- 死亡退院患者、在院日数が120日以上の患者、慢性心不全やその入院で症状がないもの
参考値の定義・計算方法1)2)
- 分子
- Heart failure patients who are prescribed an ACE-I or ARB at hospital discharge
- 分母
- Heart failure patients with LVSD
ARNI (アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)
ARNI (アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬) (LVEF<40%)
当院値の定義・計算方法
- 分子
- 入院中にARNI が処方された患者数
- 分母
- 18歳以上の左室機能が悪い(=LVEFが40%未満)心不全入院患者数
- 分母除外
- 死亡退院患者、在院日数が120日以上の患者、慢性心不全やその入院で症状がないもの
MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)
MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬) (LVEF<35%)
当院値の定義・計算方法
- 分子
- 入院中にMRAが処方された患者数
- 分母
- 18歳以上の左室機能が悪い(=LVEFが35%未満)心不全入院患者数
- 分母除外
- 死亡退院患者、在院日数が120日以上の患者、慢性心不全やその入院で症状がないもの
SGLT2阻害薬(ナトリウム・グルコース共輸送体阻害薬)
SGLT2阻害薬(ナトリウム・グルコース共輸送体阻害薬) (LVEF<40%)
当院値の定義・計算方法
- 分子
- 入院中にSGLT2阻害薬が処方された患者数
- 分母
- 18歳以上の左室機能が悪い(=LVEFが40%未満)心不全入院患者数
- 分母除外
- 死亡退院患者、在院日数が120日以上の患者、慢性心不全やその入院で症状がないもの
臨床的意義: なぜこの指標が医療の質を示しているのか
左室機能が悪い心不全入院患者へのACE-I (ACE阻害薬)/ARB (アンジオテンシン受容体拮抗薬)、β-遮断薬処方率は、循環器領域のPerformance measuresの1つであり、心不全における世界的な医療の質の1項目です。左室駆出率(LVEF: left ventricular ejection fraction)が低下した心不全患者(LVEF < 40%)の治療方針において、ACE-I/ARBおよびβ-遮断薬の効果は各国のガイドラインでも明確に示されており、クラスⅠと強い推奨度です3)4)5)6)。
また、2020年より本邦でもSGLT2阻害薬(ナトリウム・グルコース共輸送体阻害薬)、ARNI(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)が新たに心不全治療薬として承認されました。ACE-I/ARB/ARNI、β-遮断薬、MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)、SGLT2阻害薬はいずれも左室駆出率が低下した心不全患者に対して心不全の入院を抑制し、生命予後を改善することが示されており、ガイドラインでもクラスI推奨のkey drugです。近年、これら4種の薬剤を合わせてFantastic Fourと呼ばれています。これを鑑み、本年度よりこれらの4薬剤全てに対して処方率の観測範囲を拡大しました。さらにARNIについてはACE-I/ARBからの切り替えによる上乗せ効果も期待されており、ARNI単独でも処方率の観測を開始することとしました。
Plan(計画)
- 2014 America’s Hospitals: The Joint Commission’s Annual Reportに準拠した定義で測定開始7)8)9)
- 2022 測定項目としてARNI、MRA、SGLT2阻害薬を追加
Do(実行)
- 2010 心不全クリニカルパスを用いて処方漏れの減少を狙う
- 2012 β-遮断薬処方に関する診療科内でのフィードバック
- 2014 腎臓内科とACE-I/ARB処方について検討
Check(評価)
- 3か月に1回のデータ収集にて値確認、心血管センター運営会議にて報告
Act(改善)
- モニタリング継続
考察・改善に向けての今後の予定
ガイドラインに即した治療(GDMT:guideline-directed medical therapy)が継続的に行われるように数値測定と啓蒙活動を続けていく
β-遮断薬
当院での処方率は約90%の比較的高い水準で維持できており、2021年度の数値は今までで最も高い95.5%でした。処方できていない理由を検討すると、「血圧低下・徐脈等により導入できなかった」のが大半であり、これらを除くほとんどの症例で処方されていることが確認できました。引き続き高い水準を維持できるように周知徹底を図ります。
少し注意すべきなのは血圧が低めの心不全患者に対する処方の差し控えです。特に重症心不全患者の血圧目標は個別に検討する必要があり、明らかな臓器還流不全を有さない低血圧についてはある程度許容可能であり、心不全の予後改善効果のあるβ- 遮断薬の導入をためらうべきではないと考えます。今後もこのような心不全患者における積極的なβ - 遮断薬の処方について、診療科内で理解を深める必要があるでしょう。
ACE-I/ARB/ARNI
当院での処方率は2018年度まで緩やかに落ち込んでいましたが、その後は徐々に改善が見られ2020年度からは再び80%を上回りました。処方できていない症例の理由を検討すると「腎機能障害」、「血圧低値」がほとんどであり、これらを除く多くの症例で処方されていることが確認できました。ただまだ一定数導入可能と思われる未導入例が散見されるので、今後もこれを全病院的に周知していく事が重要だと考えます。
なお、基本的に血管浮腫などの禁忌がないEF低下の心不全では全例で投与すべきですが、ガイドラインで「導入に注意が必要・専門家の意見を仰ぐ」という記載があるのは以下の場合です6)。
(1)血清カリウム(K)値 > 5.0 mEq/L
(2)血清クレアチニン(Cr) > 2.5 mg/dL or eGFR <30 mL/min/1.73 m2
(3)収縮期血圧 < 90 mmHg
本薬剤は短期的には血圧低下や腎機能の悪化、電解質異常のリスクがある薬剤です。高齢者心不全において、どこまで処方を継続することが本当に予後に関与するのか?透析はどう考えるのか?など、非常に多くの因子が関わっており、診療科を超えてどのように治療していくのがベストかという答えはまだ出せていません。中には90歳を超える超高齢者や血圧の低い末期心不全の方も含まれており、引き続き個々の症例毎により適切と思われる治療法を模索していきます。
またARNIは2020年から本邦で承認されていますが、ACE-I/ARBからの切り替えによる治療効果のさらなる改善が期待されており、年々処方率が上昇しています。
MRA
MRAは欧米では左室駆出率が低下した心不全患者(LVEF < 40%)に一括してクラスⅠ推奨となっていますが3)6)、日本のガイドラインでは特にLVEF < 35%の心不全患者に対して導入が推奨されています4)5)。当院では日本のガイドラインに準拠してLVEF < 35%の心不全患者への入院中処方率を指標として採用しています。ACE-I/ARB/ARNIと同様に血清カリウム値や腎機能に注意が必要な薬剤ですが、当院での処方率は年々改善しており、2022年度にはこれまでで最高の88.9%に到達しています。
SGLT2阻害薬
SGLT2阻害薬はもともと糖尿病治療薬として使用されてきましたが、2020年から本邦でも糖尿病の有無に関わらず左室駆出率が低下した心不全患者(LVEF < 40%)に対して適応が拡大されました。当院での処方率も年々増加しており、2022年度の時点で75.3%を記録しています。
なお、本薬剤は左室駆出率が保たれた心不全患者に対しても効果が確認されており、2023年のESCのガイドラインでは全ての慢性心不全患者に対してclass Iの推奨となりました10)。本邦のガイドラインはまだ改訂されていませんが、2023年6月に日本循環器学会・日本心不全学会から「心不全治療における SGLT2 阻害薬の適正使用に関する Recommendation」が発表され、「左室駆出率にかかわらず積極的にその使用を検討する」ように推奨されています11)。
参考文献
- 1)Heart Disease and Stroke Statistics-2020 Update: A Report From the American Heart Association, Circulation. 2020;141:e139–e596. (Unpublished American Heart Association tabulation, GWTG–HF, July 1, 2017, to June 30, 2018.)
- 2)American College of Cardiology Foundation (ACCF)/American Heart Association (AHA)/Physician Consortium for Performance Improvement® (PCPITM), Heart Failure Performance Measurement Set, ACCF/ AHA Approved December 2010, PCPI Approved January 2011, Updated May 15, 2012.
http://www.ama-assn.org/ama1/pub/upload/mm/pcpi/hfset-12-5.pdf
(2014.07.07 available) - 3)Paul A. et al. 2022 AHA/ACC/HFSA Guideline for the Management of Heart Failure: A Report of the American College of Cardiology/American Heart Association Joint Committee on Clinical Practice Guidelines. Circulation. 2022;145:e895–e1032.
- 4)日本循環器学会:急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版). Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure (JCS 2017/JHFS 2017)
- 5)日本循環器学会:急性・慢性心不全診療ガイドライン(2021年フォーカスアップデート版). JCS/JHFS 2021 Guideline Focused Update on Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure.
- 6)McDonagh TA, et al. 2021 ESC Guidelines for the diagnosis and treatment of acute and chronic heart failure. Eur Heart J. 2021 Sep 21;42(36):3599-3726.
- 7)America’s Hospitals: Improving Quality and Safety; The Joint Commission’s Annual Report 2015.
- 8)The Joint Commission; Specifications Manual for National Hospital Inpatient Quality Measures, Version 4.3b HF-3 ACEI or ARB for LVSD.
http://www.jointcommission.org/assets/1/6/HIQR_Jan2014_v4_3b.zip
(2015.06.04 available) - 9)The Joint Commission; measurement, Cardiac Care Measures, Chart Abstracted Measures for Certification, Advanced Certification Heart Failure Outpatient (ACHFOP), ACHFOP-01 Hospital Outpatient Beta-Blocker Therapy (i.e., Bisoprolol, Carvedilol, or Sustained-Release Metoprolol Succinate Prescribed for LVSD), ACHFOP-02 Hospital Outpatient ACEI or ARB Prescribed for LVSD, ACHFOP-03 Hospital Outpatient Mineralocorticoid Receptor Antagonist
https://www.jointcommission.org/measurement/measures/cardiac-care/
(2024.05.12 available) - 10)Correction to: 2023 Focused Update of the 2021 ESC Guidelines for the diagnosis and treatment of acute and chronic heart failure. Eur Heart J. 2024 Jan 1;45(1):53.
- 11)日本循環器学会・日本心不全学会:心不全治療におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation:
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2023/06/jcs_jhfs_Recommendation_SGLT2_Inhibitors__HF.pdf
(2024.01.15 available)
執筆者
- 医療の質
評価側面 - Structure Process Outcome
- 指標改善
パターン - 医療従事者へのリマインド コミュニケーションの改善 監査とフィードバック 医療者への教育 患者への教育 患者へのリマインド 患者へのプロモーション 組織・体制の変更 ルールの変更
32 心不全入院患者における退院後予約割合 Post-discharge appointment for Patients with Heart Failure (Inpatient Setting)
心不全入院患者における退院後予約割合(7日以内)
心不全入院患者における退院後予約割合(1か月以内)
当院値の定義・計算方法
- 分子
- 退院から7日以内(1か月以内)の再診予約がある患者数
- 分母
- 心不全入院患者数
- 分母除外
- 死亡退院患者、2014年までは慢性心不全やその入院で症状がないものをチャートレビューにて除外
参考値の定義・計算方法1)2)
- 分子
- Patients for whom a follow up appointment was scheduled and documented including location, date and time for either:
・An office visit for management of heart failure with a physician OR advanced practice nurse OR physician assistant OR
・A home health visit for management of heart failure
- 分母
- All patients, regardless of age, discharged from an inpatient facility (ie, hospital inpatient or observation) to ambulatory care (home/self care) or home health care with a principal discharge diagnosis of heart failure
臨床的意義: なぜこの指標が医療の質を示しているのか
心不全における再入院は世界的に大きな問題で、再入院の予防においては欧米のガイドラインでも「包括的退院企画と退院後サポート」が重要であるといわれています3)。循環器領域のPerformance measuresでも1項目として取り上げられ、その中でも、7日以内の早期外来フォローは再入院を減少させるとしています4)。そのため、適切な退院後管理の中で退院後予約の割合は、医療の質を示す1つの指標として妥当であると考えられます。
Plan(計画)
- 2014 測定開始
Do(実行)
- 2014 診療科内でフィードバック
Check(評価)
- 3か月に1回のデータ収集にて値確認、心血管センター運営会議にて報告
Act(改善)
- モニタリング継続
考察・改善に向けての今後の予定
最適な退院後外来受診のタイミングはいつか
当院では「退院後7日以内」および「退院後1か月以内」の退院後外来予約について測定を行っておりますが、日本と欧米では医療制度の社会背景の違いもあるためこれらの数値の単純比較は少し困難になっています。
例えば、日本では病態が安定するまで比較的長い入院期間を経て退院することが多く、重症例を除き退院後少し間隔をあけて外来予約を取得されている事が推察されます。また、諸外国と比較すると緊急時に専門医へのアクセスが容易な事もインターバルが長めになっている要因かもしれません。一方欧米では、在宅看護・医療システムの充実により自宅等で点滴治療などを含めた医療介入を行うことも可能であり、患者を比較的短い入院期間で退院させた上で、退院後に臨床看護師も介入の上治療を継続している、という点を理解しなくてはなりません。
さらに、この指標を考察する場合に注意しなければいけないのは、欧米での再入院率は1か月で30%近くであるのに対して、当院をはじめ日本では10%に満たない点です。心不全の管理には継続的な介入が必要なため、退院後早期の外来受診は確かに重要と思われます。しかし、再入院率が欧米に比べ低い日本において、特に「退院後7日以内」の再受診については必要性を検証してもいいかもしれません。
参考文献
- 1)American College of Cardiology Foundation (ACCF)/American Heart Association (AHA)/Physician Consortium for Performance Improvement®( PCPITM), Heart Failure Performance Measurement Set, ACCF/ AHA Approved December 2010, PCPI Approved January 2011, Updated May 15, 2012.
http://www.ama-assn.org/ama1/pub/upload/mm/pcpi/hfset-12-5.pdf
(2014.07.07 available) - 2)The Joint Commission; measurement, Cardiac Care Measures, Chart Abstracted Measures for Certification, ACHF-02 Post-Discharge Appointment for Heart Failure Patients
https://www.jointcommission.org/measurement/measures/cardiac-care/
(2024.05.12 available) - 3)Bonow RO, Ganiats TG, Beam CT, Blake K, Casey DE Jr, Goodlin SJ, Grady KL, Hundley RF, Jessup M, Lynn TE, Masoudi FA, Nilasena D, Pina IL, Rockswold PD, Sadwin LB, Sikkema JD, Sincak CA, Spertus J, Torcson PJ, Torres E, Williams MV, Wong JB:ACCF/AHA/AMA-PCPI 2011 performance measures for adults with heart failure: a report of the American College of Cardiology Foundation/ American Heart Association Task Force on Performance Measures and the American Medical Association-Physician Consortium for Performance Improvement.Circulation.2012;125 (19):2382-2401.
- 4)Yancy CW, et al.: 2013 ACCF/AHA guideline for the management of heart failure: a report of the American College of Cardiology Foundation/American Heart Association Task Force on practice guidelines. Circulation.2013;128(16): e240
執筆者
- 医療の質
評価側面 - Structure Process Outcome
- 指標改善
パターン - 医療従事者へのリマインド コミュニケーションの改善 監査とフィードバック 医療者への教育 患者への教育 患者へのリマインド 患者へのプロモーション 組織・体制の変更 ルールの変更
33 心不全患者における退院後の治療計画記載率 Discharge instructions to heart failure patients
心不全患者における退院後の治療計画記載率
当院値の定義・計算方法
- 分子
- 入院中に退院計画書を作成した患者数
- 分母
- 18歳以上の心不全入院患者数
- 分母除外
- 死亡退院患者、在院日数が120日以上の患者
※2014年までは慢性心不全やその入院で症状がないものをチャートレビュー後に除外
参考値の定義・計算方法1)
- 分子
- Heart failure patients with documentation that they or their caregivers were given written discharge instructions or other educational material addressing all of the following:
1. activity level
2. diet
3. discharge medications
4. follow-up appointment
5. weight monitoring
6. what to do if symptoms worsen
- 分母
- Heart failure patients discharged home
臨床的意義: なぜこの指標が医療の質を示しているのか
心不全における再入院は世界的に大きな問題で、再入院の予防においては欧米でのガイドラインでも「包括的退院企画と退院後サポート」が重要であるといわれています2)。循環器領域のPerformance measuresでも1項目として取り上げられており、その中でも包括的な退院企画の中で、身体活動度、食事、退院時処方薬、外来受診予約、体重モニタリング、症状悪化時の対応などについてしっかり教育できているかということは重要です3)。
実際に、再入院率低下には患者教育が必要で、退院指導が入っていることは医療の質における1つの指標として妥当であると考えられます。本指標はコメディカルスタッフの協力の甲斐もあり非常に高い水準で保たれており、今後もこの状態を維持していくことが重要と考えています。
参考文献
- 1)The Joint Commission; Specifications Manual for National Hospital Inpatient Quality Measures, Version 4.3b HF-1 Discharge Instructions.
http://www.jointcommission.org/assets/1/6/HIQR_Jan2014_v4_3b.zip
(2015.06.04 available) - 2)Bonow RO, Ganiats TG, Beam CT, Blake K, Casey DE Jr, Goodlin SJ, Grady KL, Hundley RF, Jessup M, Lynn TE, Masoudi FA, Nilasena D, Pina IL, Rockswold PD, Sadwin LB, Sikkema JD, Sincak CA, Spertus J, Torcson PJ, Torres E, Williams MV, Wong JB:ACCF/AHA/AMA-PCPI 2011 performance measures for adults with heart failure: a report of the American College of Cardiology Foundation/ American Heart Association Task Force on Performance Measures and the American Medical Association-Physician Consortium for Performance Improvement.Circulation.2012;125(19):2382-2401.
- 3)Yancy CW, et al.: 2013 ACCF/AHA guideline for the management of heart failure: a report of the American College of Cardiology Foundation/ American Heart Association Task Force on practice guidelines. Circulation.2013;128(16): e240
- 4)VanSuch M, Naessens JM, Stroebel RJ, Huddleston JM, Williams AR.: Effect of discharge instructions on readmission of hospitalised patients with heart failure: do all of the Joint Commission on Accreditation of Healthcare Organizations heart failure core measures reflect better care?. Qual Saf Health Care. 2006; 15(6), 414-417.
執筆者
- 医療の質
評価側面 - Structure Process Outcome
- 指標改善
パターン - 医療従事者へのリマインド コミュニケーションの改善 監査とフィードバック 医療者への教育 患者への教育 患者へのリマインド 患者へのプロモーション 組織・体制の変更 ルールの変更