7生活習慣Lifestyle-related
Diseases

20 75歳以下の糖尿病患者の腎症スクリーニング率 Screening adherence of nephropathy for diabetic people younger than 76

75歳以下の糖尿病患者の腎症スクリーニング率

当院値の定義・計算方法

分子
過去1年間に尿中微量アルブミンまたは尿蛋白(定量)が測定されている
分母
糖尿病の薬物治療を施行されている75歳以下の患者数
(過去1年間に該当治療薬が外来で合計90日以上処方されている患者)
※人工透析・腹膜透析を受けている患者は除く

臨床的意義: なぜこの指標が医療の質を示しているのか

2020年度までは糖尿病診療の質の指標としてHbA1c<7.0%を採用していました。しかしこの一律の目標値は国内外で約10年前まで提唱されていたものでした。その後の国内外の診療ガイドラインでは血糖コントロール目標値の個別化を推奨しており1)2)、低血糖を起こしやすい高齢者ではHbA1cを7.5%未満に下げないことも推奨されています3)。HbA1c<7.0%を一律の目標値とするのは時代錯誤となっているため、2021年度からはHbA1c値よりも実用的で妥当性の高い指標として糖尿病合併症スクリーニング遵守率に変更しました。特に、腎症のスクリーニング法は通常の血液検査と尿検査で可能な簡便な検査です。

Plan(計画)

  • 病院全体としての目標値を設定
  • 定期的に担当医師にフィードバック
  • 遵守率が低い患者の傾向を調査

Do(実行)

  • 勉強会開催
  • 2006.8 血糖コントロールの仕方
  • 2008.2 糖尿病薬の選択のコツ
  • 2009.2 インスリン療法について-治療、感染・周術期管理
  • 2009.6 合併症を予防するための血糖コントロール法
  • 2010.12 新糖尿病薬-これからの血糖コントロール
  • 2014年以降,年始数回糖尿病勉強会開催中
  • 2020年以降,減量・糖尿病治療専門外来スタッフ間で定期勉強会開催中
  • 院長より医師個々へフィードバック

Check(評価)

  • 6か月毎にコントロール状況を確認

Act(改善)

  • フィードバック継続
  • 新薬の発売に伴う、適切な糖尿病関連薬の使い方の啓発活動継続

考察、改善に向けての今後の予定など

内分泌・代謝科内外において腎症スクリーニング意義の周知・啓発に努め、遵守率向上を目指す

当院の数値は、内分泌・代謝科の患者のみではなく、聖路加関連病院全体のさまざまな診療科において糖尿病治療を受けている患者全体の値です。

糖尿病は無症状のことが多いため、定期的な合併症スクリーニングおよびそれに対する早期介入が重要です。糖尿病合併症の一つに腎症(腎障害・腎機能低下)があり、最近では糖尿病性腎症人工透析導入の主因となっています。腎症のスクリーニングは通常の検査で行うことができ、適切な介入による効果も確立しているため、指標として採用しました。

診療ガイドラインでは尿中微量アルブミンまたは尿蛋白1年に1回以上測定することが推奨されています2)。しかしながら当院での腎症スクリーニング遵守率は2020年度までは漸減していることが判明したため、2021年度にはまず内分泌・代謝科内での周知・確認を強化し、その後も随時啓発活動をしています。その結果遵守率は急増加してきています。糖尿病関連薬が急増していることもあり、今後は当科以外の科への周知・啓発(特にスクリーニング意義や腎症への対策)に一層努めていきます。

参考文献

  • 1)日本糖尿病学会編著:糖尿病診療ガイドライン2019.南江堂,2019.
  • 2)日本糖尿病・生活習慣病ヒューマンデータ学会. 糖尿病標準診療マニュアル2024 一般診療所・クリニック向け, 2024.
  • 3)日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会. 高齢者糖尿病の血糖コントロール目標 2016.

執筆者

能登 洋
内分泌代謝科部長
医療の質
評価側面
Struc­ture Pro­cess Out­come
指標改善
パターン
医療従事者へのリマインド コミュニケーションの改善 監査とフィードバック 医療者への教育 患者への教育 患者へのリマインド 患者へのプロモーション 組織・体制の変更 ルールの変更

21 高血圧(降圧薬服用)患者の血圧測定率 Blood pressure monitoring in outpatients on anti-hypertensive medication

高血圧(降圧薬服用)患者の血圧測定率

当院値の定義・計算方法

分子
最終処方日の前3か月以内に血圧測定の記録がある患者数
分母
降圧薬を処方されている18歳以上の患者数
(過去1年間に降圧薬が外来で合計90日以上処方されている患者)

参考値の定義1)

分子
All patient visits for patients with a documented diagnosis of HTN and aged 18 years and older at the beginning of the measurement period
分母
Patient visits with a blood pressure measurement recorded during the measurement period

臨床的意義: なぜこの指標が医療の質を示しているのか

高血圧が心血管病に与える悪影響は、古くからよく知られています。近年では画一的に血圧目標を決めるのではなく、個々の病態に応じた目標値を設定することが重要とされています2)。一方で漫然とした処方の継続が行われやすいのも現実です。適切に血圧を測定・評価せずに同様の処方を継続するだけでは、適切な治療介入とはいえないのは勿論のこと、患者の最終的な予後も改善することはできません。また、血圧を測定する行動自体が適切な高血圧治療のための最初の一歩と考えられます。

測定された血圧値は高血圧治療の根拠であり、他の医療従事者からも明確に確認できることが必要です。ゆえに血圧測定率は、病院全体の医療の質を表す指標として非常に重要です。

2020年には新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に伴い、感染リスクなどの懸念から測定率が急激に低下しましたが、その後は感染予防に配慮しながら測定を再開しています。2020年5月より循環器内科医師、さらに2021年12月より循環器内科以外の医師への個別フィードバックを開始しました。これらを受けて少しずつ数値は持ち直しており、コロナ禍以前の水準まで回復しました。

参考文献

  • 1)American Medical Association. HYPERTENSION (HTN)Algorithm for Measures calculation-EHRS (Analytic Narrative and Data Elements).
    http://www.ama-assn.org/ama1/pub/upload/mm/pcpi/htnanalyticnarr307_7.pdf
    (2014.06.24 avaliable)
  • 2)日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会編:高血圧治療ガイドライン2019.日本高血圧学会,2019.
  • 3)eCQI: Controlling High Blood Pressure
    https://ecqi.healthit.gov/ecqm/ec/2024/cms0165v12?qt-tabs_measure=measure-information
    (Last access: 2024.06.24)
  • 4)Chobanian AV, Bakris GL, Black HR, Cushman WC, Green LA, Izzo JL, et al.: Seventh report of the Joint National Committee on Prevention, Detection, Evaluation, and Treatment of High Blood Pressure. Hypertension 2003; 42 (6): 1206-1252
  • 5)NICE Menu of Indicators. The percentage of patients under 80 years old with hypertension in whom the last recorded blood pressure (measured in the preceding 9 months) is 140/90 or less.
    http://www.nice.org.uk/aboutnice/qof/indicators.jsp(2014.06.24 available)

執筆者

蟹江 崇芳
循環器内科医員
医療の質
評価側面
Struc­ture Pro­cess Out­come
指標改善
パターン
医療従事者へのリマインド コミュニケーションの改善 監査とフィードバック 医療者への教育 患者への教育 患者へのリマインド 患者へのプロモーション 組織・体制の変更 ルールの変更

22 高血圧(降圧薬服用)患者の血圧コントロール率 Blood pressure control in outpatients on anti-hypertensive medication

降圧薬服用患者の血圧コントロール(60歳以上)(血圧 150/90 mmHg未満)

当院値の定義・計算方法

分子
調査対象年の最終血圧値が150/90 mmHg未満の患者数
分母
降圧薬を処方されている60歳以上の患者数
(過去1年間に降圧薬が外来で合計90日以上処方されている患者)

参考値の定義1)

分子
Patients with hypertension in whom the last blood pressure (measured in the previous 9 months) is 150/90 mmHg or less
分母
Patients with established hypertension

降圧薬服用患者の血圧コントロール(18歳以上60歳未満)(血圧 140/90 mmHg未満)

当院値の定義・計算方法

分子
調査対象年の最終血圧値が140/90 mmHg未満の患者数
分母
降圧薬を処方されている18歳以上60歳未満の患者数
(過去1年間に降圧薬が外来で合計90日以上処方されている患者)

臨床的意義: なぜこの指標が医療の質を示しているのか

近年は病態に応じた高血圧治療が行われています。血圧のコントロールが不良だと予後が悪化することは過去のエビデンスから明らかであり、血圧を至適な状態に保つことにより心血管病の発症を予防できるとされています 1)2)3)。また、この効果は降圧薬の種類によらず、降圧度の大きさに比例することが、大規模臨床試験のメタ解析から示されています 4)5)

欧米においても血圧コントロール率は医療の質の項目に挙げられており、日本のようにかかりつけ医が必須でない環境においては、少なくとも病院に通院して高血圧治療(降圧薬処方)を受けている患者の血圧コントロールが、重要な医療の質を表す指標となると考えています。

SPRINT Trialなどが報告されてからは、至適血圧の考え方についても変化が見られています6)。血圧目標値は今後も変化があると予想されますが、150/90mmHgないし140/90mmHg未満という目標値は誰もが最低限到達すべきものと考え、長らくこの基準で測定を行ってきました。

その後、欧米のガイドライン改定に追随する形で2019年に日本の高血圧治療ガイドライン(JSH2019)が改訂され、降圧目標は年齢や各病態を勘案した上で140/90mmHgないし130/80mmHg未満と厳格化されました7)。2019年9月に院内の勉強会で目標値の厳格化について周知を図り、個別フィードバックを通じて血圧入力・血圧コントロールともに旧来指標の達成率は順調に改善されてきています。これを受けて2024年度からは140/90mmHgないし130/80mmHg未満と目標値の改訂する方針としています。

Plan(計画)

  • 2008.4 QI委員会指標として計測開始
  • 2009 降圧薬の定義の見直し
  • 2009 血圧の中央測定(来院時にすべての患者の血圧測定)を検討
  • 2011 医師個人別での血圧コントロール値の計測開始
  • 2014 高血圧ガイドライン変更に伴う指標の変更(日本高血圧学会(JSH)2014)
  • 2018 プロジェクト再開(特に若年者の高血圧への介入を強化)
  • 2019 高血圧ガイドライン変更に伴う指標の変更(日本高血圧学会(JSH)2019)
  • 2024 院内の血圧目標値の見直し

Do(実行)

  • 2009.4 勉強会「Quality Indicatorとしての血圧値―聖路加国際病院での取り組み―」「臓器合併症を考慮した高血圧薬物療法―JSH2009を踏まえて―」の開催
  • 2010 血圧値の指標のよりどころのアンケート調査
  • 2010 家庭血圧の入力フォームの作成を依頼
  • 2010 院長より個別の数値リストをフィードバック(以降、年1回)
  • 2010.7 勉強会「高血圧の治療 up-to-date―あなたの患者さんは十分血圧がコントロールされていますか―」の開催
  • 2011 血圧入力値の向上するために各医師へフィードバック
  • 2011 血圧コントロールが3回以上連続で悪い医師へのフィードバック
  • 2012 臨床決断支援システム(CDSS:Clinical Decision Support System)の導入
  • 2012.1 勉強会「高血圧の診かた-データが語るウソ・ホント-」の開催
  • 2014 血圧指標の見直し
  • 2018 指標定義の再検討、データ抽出条件の見直し
  • 2019.5 院内への定期的なアナウンスの実施
  • 2019.9 勉強会「チーム医療のスタッフとして高血圧について知っていてほしいこと」の開催
  • 2020.5 循環器内科で個別フィードバック(血圧測定率・血圧コントロール率)を開始
  • 2021.12 循環器内科以外の医師への個別フィードバック(血圧測定率)を開始。

Check(評価)

  • 2011 血圧コントロール値が連続して悪い医師は入力率が悪いことが判明
  • 2011 血圧コントロール率には季節性変動があることを再認識
  • 2012 入力漏れが多い診療科(循環器内科)を同定
  • 2013 CDSと血圧入力率向上
  • 2014 血圧入力値・血圧指標伸び悩み
  • 2018 診療科別・医師別のコントロール率を算出
  • 2021 血圧測定率・コントロール率ともに改善傾向

Act(改善)

  • 年間を通じてのコントロールの必要性を検討
  • モニタリングの継続
  • コントロール率が低い要因を分析し関係者にフィードバック
  • 院内向けアナウンス・定期的な勉強会の実施 
  • 個別フィードバックの強化(全診療科へ拡大)
  • 抽出対象薬剤の見直し

考察、改善に向けての今後の予定など

”clinical inertia”(臨床的惰性)を回避して適切なリスクコントロールを図る

血圧入力率・血圧コントロール率ともに高い水準を維持するには継続的かつ積極的な血圧コントロールの啓蒙活動が必要だと考えています。”clinical inertia”(臨床的惰性)として知られる通り、血圧コントロールが不十分である背景には、患者要因である服薬アドヒアランスの不良や不適切な生活習慣だけではなく、我々臨床医による治療開始・治療強化の遅延が一因であることを肝に銘じる必要があります8)

当院では特に若年者(18歳以上60歳未満)でのコントロール率が相対的に悪いことがわかっています。心血管リスク低減のためには若年時からの適切な血圧コントロールが重要と考えられ9)10)、これらに対して積極的に介入をしていく方針としています。2020年5月より循環器内科医師への個別フィードバックを開始し、前項の血圧測定率と血圧コントロールの両指標について一定の改善が得られました。さらに2021年12月より循環器内科以外の医師への個別フィードバックを開始しており、院内全体で今後のさらなる数値改善が期待されます。

今後は診察室血圧だけでなく診察室外血圧にも注目し、よりきめ細かい血圧コントロールを行うことも重要だと考えています。また本指標の改善には、医療従事者の力だけでなく、患者さん自身の高血圧治療への関心を高めていくことが大切だと考えています。

参考文献

  • 1)Thom T, Haase N, Rosamond W, Howard VJ, Rumsfeld J, Manolio T, Zheng ZJ, Flegal K, O'Donnell C, Kittner S, Lloyd-Jones D, Goff DC Jr, Hong Y, Adams R, Friday G, Furie K, Gorelick P, Kissela B, Marler J, Meigs J, Roger V, Sidney S, Sorlie P, Steinberger J, Wasserthiel-Smoller S, Wilson M, Wolf P: Heart disease and stroke statistics - 2006 update: a report from the American Heart Association Statistics Committee and Stroke Statistics Subcommittee. Circulation. 2006; 113(6): e85-151.
  • 2)Psaty BM, Manolio TA, Smith NL, Heckbert SR, Gottdiener JS, Burke GL, et. al.: Time trends in high blood pressure control and the use of antihypertensive medications in older adults: the Cardiovascular Health Study. Arch Intern Med. 2002; 162(20): 2325-2332.
  • 3)James PA, Oparil S, Carter BL, Cushman WC, Dennison-Himmelfarb C, Handler J, Lackland DT, LeFevre ML, MacKenzie TD, Ogedegbe O, Smith SC Jr, Svetkey LP, Taler SJ, Townsend RR, Wright JT Jr, Narva AS, Ortiz E: 2014 evidence-based guideline for the management of high blood pressure in adults: report from the panel members appointed to the Eighth Joint National Committee (JNC 8). JAMA. 2014;311(5): 507-520.
  • 4)Turnbull F: Effects of different blood-pressure-lowering regimens on major cardiovascular events: results of prospectively-designed overviews of randomised trials. Lancet. 2003; 362(9395): 1527-1535.
  • 5)Blood Pressure Lowering Treatment Trialists' Collaboration, Turnbull F, Neal B, Pfeffer M, Kostis J, Algert C, Woodward M, et al.: Blood pressuredependent and independent effects of agents that inhibit the reninangiotensin system. J Hypertens. 2007; 25 (5) : 951-958.
  • 6)SPRINT Research Group, Wright JT Jr, Williamson JD, Whelton PK, et al. A Randomized Trial of Intensive versus Standard Blood-Pressure Control. N Engl J Med. 2015; 373(22):2103-2116.
  • 7)日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会編:高血圧治療ガイドライン2019.日本高血圧学会,2019.
  • 8)Phillips LS, et al. Clinical inertia. Ann Intern Med, 135: 825-834, 2001.
  • 9)Lewington S, Clarke R, Qizilbash N, et al. Age-specific relevance of usual blood pressure to vascular mortality: a meta-analysis of individual data for one million adults in 61 prospective studies. Lancet. 2002 Dec 14;360(9349):1903-13.
  • 10)João Delgado, PhD; Kirsty Bowman, MPH; Alessandro Ble, MD; et al. Blood Pressure Trajectories in the 20 Years Before Death. JAMA Intern Med. 2018;178(1):93-99.
  • 11)NHS Employers Quality and Outcomes Framework guidance for GMS contract 2011/12 Delivering investment in general practice April 2011.
    http://www.nhsemployers.org/Aboutus/Publications/Documents/QOF_guidance_GMS_contract_2011_12.pdf (2014.06.24 available)

執筆者

蟹江 崇芳
循環器内科医員
医療の質
評価側面
Struc­ture Pro­cess Out­come
医療の質を評価する3つの側面についての説明が入ります。
医療の質を評価する3つの側面(構造・過程・結果)のどれに相当するのかを示しています。
指標改善
パターン
医療従事者へのリマインド コミュニケーションの改善 監査とフィードバック 医療者への教育 患者への教育 患者へのリマインド 患者へのプロモーション 組織・体制の変更 ルールの変更
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