5検査・薬剤Medication

13 ステロイド服薬患者の骨粗鬆症予防率 Osteoporosis prophylaxis proportion among patients taking glucocorticoids

ステロイド服薬患者の骨粗鬆症予防率 全体*

日本の報告では28.5-39.3%1)2) カナダの報告では25%3)

ステロイド服薬患者の骨粗鬆症予防率 女性(50歳以上)

ステロイド服薬患者の骨粗鬆症予防率 女性(50歳未満)

ステロイド服薬患者の骨粗鬆症予防率 男性

当院値の定義・計算方法

分子
ビタミンD製剤、ビスフォスフォネート、デノスマブ・デノタス チュアブル、テリパラチド、ロモソズマブ、SERM、イプリフラボン、のいずれかの処方歴のある患者
分母
プレドニンの外来処方を3か月連続して処方し、全ての月平均が、2.5mg/日以上の処方歴のある患者
または、プレドニンの外来処方を年に6回以上処方し、月平均が、2.5mg/日以上の処方歴のある患者
分母除外
処方オーダ時に喘息等のコメントがある患者、18歳未満の患者、直近のeGFRが60未満、結石病名の登録有り、Caが10.3以上、CDSS*の通知があり中止理由で対象外に該当した患者

参考値の定義・計算方法

分子
実際の投与者数
分母
骨粗鬆症薬の投与が必要な患者数

臨床的意義: なぜこの指標が医療の質を示しているのか

骨粗鬆症とは骨の量が低下し、骨折しやすくなる疾患です。日本における骨折・転倒は、介護が必要(要介護)となる原因の第3位であり4)、健康で暮らせる期間(健康寿命)の向上のために予防が大切な疾患の1つです。

骨折数と生命予後との関係について、椎体骨骨折数がない患者と比較すると、3か所以上の骨折を有する患者では、死亡率が4倍になるという報告や5)、50歳以上で股関節を骨折した患者の25%(4人に1人)は1年以内に病院内で死亡したという報告もあります6)

この骨粗鬆症は予防できる疾患です7)。ステロイドは骨粗鬆症のリスクとして知られていることから、あらかじめ骨粗鬆症を予防する薬剤を併用することで、“寝たきりにならない” ことを目指すことができます。

骨粗鬆症予防の国際的なガイドラインとして、2022年に改訂された米国リウマチ学会(ACR)の「ステロイド性骨粗鬆症に対するガイドライン」8)があります。本邦では2014年に改訂された「ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療ガイドライン」で、投薬の基準が明示されています。9)

ACRのガイドラインでは、プレドニゾロン換算 2.5mg/日以上のステロイドを最低3か月以上内服する場合には、骨粗鬆症の予防が推奨されています8)。ステロイド開始後できるだけ早く、臨床評価、X線での椎体骨折のスクリーニング、骨密度検査を行い、40歳以上の場合は骨折リスク評価ツール(Fracture Risk Assessment Tool, FRAX)による骨折リスクの初期評価を行うことが強く推奨されています。ビタミンDとカルシウムを十分に摂取したうえで、骨折リスクが中程度、高い、または非常に高い成人に対しては、薬物治療が強く推奨されています。本邦のガイドラインでも日本人集団のデータに基づく独自のスコアリングシステムから治療アルゴリズムが提案されています。

Plan(計画)

  • 2011.4 QI委員会指標として検討開始
  • 2023.4 2023年度より、指標の見直し(骨粗鬆症薬剤のいずれかが処方されていればカウント)

Do(実行)

  • 2011.5 ステロイド処方の多い診療科へ啓蒙活動開始
  • 2012.6 アレルギー膠原病科でCDSS*トライアル開始
  • 2013.4 ステロイド性骨粗鬆症予防・治療チェックリストの作成
  • 2013.7 勉強会「ステロイド服用患者への骨粗鬆症予防対策」の開催
  • 2017.3 隔日投与や他院での投薬など、不必要な通知をされている対象患者を分母から削除
  • 2017.10 アレルギー膠原病科でCDSSトライアル再開
  • 2018.07 全診療科へCDSS拡大
  • 2022.11 CDSS再開(アレルギー膠原病科)
  • 2023.01.18 CDSS全診療科への拡大
  • 2023.10.06 対象数の多い医師へ個別フィードバック

Check(評価)

  • 2011.6 男女別の処方状況を確認し、50歳以上の女性での処方率が低いことが判明
  • 2012.2 診療科別処方状況を分析①
  • 2012.10 未処方の患者の要因を分析
  • 2016.9 QI指標の分母に処方が不必要な患者が多く含まれていることが判明
  • 2017.7 診療科別処方状況を分析②
  • 2021.1 QIの指標の分子・分母の見直し
  • 2023.10 除外すべき患者が含まれていることが判明&再検討

Act(改善)

  • 2012.3 CDSSの導入を検討
  • 2016.4 高カルシウム血症患者除外
  • 2016.9 QI指標の分母の適正化が必要と判断
  • 2017.6 CDSSの導入を再検討。未処方の患者のカルテを開いた時に、処方の選択肢が自動的に表示される方式を提案
  • 2021.1 QI指標の見直し、骨密度検査の追加
  • 2023.3 CDSS再開に伴い、抽出ツール修正対応
  • 2023.4 CDSS中止理由内容確認・見直し
  • 2023.10 CDSSの条件およびQIの条件見直し

CDSS (Clinical Decision Support System)

考察、改善に向けての今後の予定など

臨床決断支援システムCDSSを用いて、その場で処方できるシステムを開始
CDSSに依存しない質改善へのアクション

50歳以上の女性、50歳未満の女性、男性の3グループとも、QI委員会で検討を開始した2011年度以降、QI数値が上昇しました10)。50歳以上の女性(骨粗鬆症リスクがより高い閉経後の女性)は、ビタミンD製剤とビスフォスフォネート製剤の両方の処方が必要となるため、他のグループに比べると処方率が低いと考えられました。そこで2011年度に処方内容を調査したところ、50歳以上の女性でもビタミンD製剤の処方率は57.2%であり、男性と50歳未満の女性と同等であることがわかりました。つまり、ビスフォスフォネート製剤の処方率が低いことに原因があると考えられます。

ビスフォスフォネート製剤の内服薬は毎日服用する製剤のほかに、週1回、月1回服用の製剤があり、生活スタイルにあわせて選択することができます。毎日服用する製剤より週1回、月1回服用する製剤の方がアドヒアランスが上がることが示されています11)。月1回、年1回のビスフォスフォネートの点滴製剤も登場しています。30分以上の座位保持ができない場合や、逆流性食道炎を指摘されている場合、点滴治療の予定がもともとある場合などには、よい選択となります。

また、6か月に一度の皮下注射で済むデノスマブや、造骨を促進する効果のあるテリパラチド製剤もステロイド性骨粗鬆症に対する効果が示されています12)13)。これらの新規製剤も、ビスフォスフォネート製剤に加えて、骨粗鬆症予防薬の選択肢としています。

2018年7月からは、臨床決断支援システムCDSSを用いて、対象患者のチャートを医師が開いたときにリアルタイムで骨粗鬆症薬の開始を提案する通知が届き、その場で処方できるシステムを開始しました。2020年1月から電子カルテシステムの更新に伴い一時停止となりましたが、2023年1月よりCDSSを全診療科を対象に再開しています。また、CDSSに依存しない対策として、アレルギー膠原病科外来で患者さん向けの啓発ポスターを設置したり、各医師への個別のフィードバックを行うなどのアクションを重ねています。またロモソズマブなど新規骨粗鬆症薬の登場に伴い、QI指標やCDSS通知条件の更新も都度行っています。

骨粗鬆症治療の選択肢が増える中で、骨密度に応じた最適な治療が患者さんに提供されることも重要です。追加の質指標として骨密度検査の1年以内の実施率をモニタリングするとともに、2年以上骨密度検査が行われていない場合に医師に通知するCDSSを運用予定です。

参考文献

  • 1)kirigaya D, Nakayama T, Ishizaki T, Ikeda S, Satoh T: Management and treatment of osteoporosis in patients receiving long-term glucocorticoid treatment: current status of adherence to clinical guidelines and related factors. Intern Med.2011;50(22):2793-2800.
  • 2)Iki, M., Fujimori, K., Nakatoh, S., Tamaki, J., Ishii, S., Okimoto, N., ... & Ogawa, S. (2022). Delayed initiation of anti-osteoporosis medications increases subsequent hip and vertebral fractures in patients on long-term glucocorticoid therapy: A nationwide health insurance claims database study in Japan. Bone, 160, 116396.
  • 3)Majumdar SR, Lix LM, Yogendran M, Morin SN, Metge CJ, Leslie WD. Population-based trends in osteoporosis management after new initiations of long-term systemic glucocorticoids (1998-2008). J Clin Endocrinol Metab. 2012; 97(4):1236-1242.
  • 4)2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況. 厚生労働省
  • 5)Ensrud KE, Thompson DE, Cauley JA, et al.: Prevalent vertebral deformities predict mortality and hospitalization in older women with low bone mass. Fracture Intervention Trial Research Group. J Am Geriatr Soc. 2000; 48 (3): 241-249.
  • 6)Lu-Yao GL, Baron JA, Barrett JA, et al.: Treatment and survival among elderly Americans with hip fractures:a population-based study. Am J Public Health. 1994; 84 (8): 1287-1291.
  • 7)Roux C, Seeman E, Eastell R, et al.: Efficacy of risedronate on clinical vertebral fractures within six months. Curr Med Res Opin. 2004; 20 (4):433-439.
  • 8)Humphrey, M. B., Russell, L., Danila, M. I., Fink, H. A., Guyatt, G., Cannon, M., ... & Uhl, S. (2023). 2022 American College of Rheumatology Guideline for the Prevention and Treatment of Glucocorticoid‐Induced Osteoporosis. Arthritis & Rheumatology, 75(12), 2088-2102.
  • 9)一般社団法人日本骨代謝学会 グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症の管理と治療のガイドライン作成委員会(委員長 田中良哉)編. グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症の管理と治療のガイドライン2023. 南山堂
  • 10)Suda, Masei, et al. "Effects of quality indicator monitoring for glucocorticoid‐induced osteoporosis and trends of drug treatment in a Japanese hospital." International journal of rheumatic diseases 21.5 (2018): 975-981.
  • 11)Confavreux CB, Canoui-Poitrine F, Schott AM, Ambrosi V, Tainturier V, Chapurlat RD:Persistence at 1 year of oral antiosteoporotic drugs: a prospective study in a comprehensive health insurance database. Eur J Endocrinol. 2012; 166(4):735-741.
  • 12)Dore RK, Cohen SB, Lane NE, Palmer W, Shergy W, Zhou L, et al.:Effects of denosumab on bone mineral density and bone turnover in patients with rheumatoid arthritis receiving concurrent glucocorticoids or bisphosphonates. Ann Rheum Dis. 2010; 69(5):872-875.
  • 13)Saag KG, Zanchetta JR, Devogelaer JP, Adler RA, Eastell R, See K, et al.: Effects of teriparatide versus alendronate for treating glucocorticoid-induced osteoporosis: thirty-six-month results of a randomized, double-blind, controlled trial. Arthritis Rheum. 2009; 60 (11):3346-3355.

執筆者

小澤 廣記
アレルギー膠原病科医員
医療の質
評価側面
Struc­ture Pro­cess Out­come
指標改善
パターン
医療従事者へのリマインド コミュニケーションの改善 監査とフィードバック 医療者への教育 患者への教育 患者へのリマインド 患者へのプロモーション 組織・体制の変更 ルールの変更

14 入院患者のうち薬剤管理指導を受けた者の割合 Medication teaching - inpatient

入院患者のうち薬剤管理指導を受けた者の割合

当院値の定義・計算方法

分子
入院中に薬剤管理指導(退院時指導も含む)を行った患者数
分母
退院患者数
分母除外
NICU・3W、宿泊ドック、出産入院病棟

参考値の定義・計算方法5)

分子
500床以上の施設
月平均薬剤管理指導料請求算定件数
(薬剤管理指導1:415人、指導2:698人、合計1,113人/月)
年換算13,356人
分母
500床以上の施設
平均在院患者数514人 平均在院日数12日
上記数値より概算した場合 514×365/12=15,634人

臨床的意義: なぜこの指標が医療の質を示しているのか

病院薬剤師が行う薬剤管理指導業務には、患者の薬物治療の適正化、副作用モニター、持参薬チェック、服薬指導などがあります。薬剤管理指導を行うことで、患者は薬物治療への理解を深め、薬を服用することへの不安を軽減し、アドヒアランスを高めます1)

さらに、薬剤管理指導は、患者の検査値にも影響を与え、総コレステロールおよびHbA1cを低下させたとの報告もあります2)。米国では、患者ケアにおける薬剤師の効果として、HbA1c・LDL-コレステロール・血圧・薬物有害事象の減少、および患者のアドヒアランス、薬の知識、QOL(quality of life:生活の質)の向上を示しています3)

また、薬剤管理指導件数の増加により薬剤に関連するインシデントレポート件数が減少したとの報告4)もあり、医療の質を示す間接的指標として有用と考えています。

Plan(計画)

  • 2010.4 QI委員会指標として測定開始
  • 2020.1 新電子カルテシステム移行に伴うデータ抽出方法の再考
  • 2021.4 記録作成の効率化と質向上を目的とした薬剤師診療記録テンプレートの改訂
  • 2023.4 薬剤部として、同一の薬剤師が継続して専任病棟に従事する体制(専従化)の推進
  • 2023.4 病床稼働率の改善および薬物治療の質向上を目的としてタスクシフト・シェアの推進

Do(実行)

  • 2010 服薬指導を行う薬剤師の増員
  • 2010.11 病棟勤務シフトの変更、夜間勤務の変更
  • 2010.12 持参薬チェック開始
  • 2011.9 集中治療領域(CCM、HCU)への薬剤師配属
  • 2013.9 薬剤師による持参薬確認業務開始
  • 2013.9 薬剤師による持参薬セット化業務開始
  • 2014.4 日曜祝祭日の指導を開始。休日の持参薬確認体制の強化
  • 2015.4 薬剤部内のクリニカルレポートシステムを利用して患者モニタリングの強化
  • 2017.3 集中治療領域(ICU)への薬剤師配属
  • 2020.4 二次利用データ提供によるデータ抽出方法の確定
  • 2020.8 集中治療領域(ICCU)への薬剤師配属
  • 2021.6 薬剤師初診時記録テンプレートの改訂
  • 2023.7 7階西病棟にて1病棟2名の専従薬剤師の配置開始

Check(評価)

  • 2011.1 服薬指導がもたらす患者へのメリットについて、メディケーションエラーを回避した事例の情報収集開始
  • 2011.7 メディケーションエラー回避について、心血管系患者での薬剤間違い・処方薬の過不足が多いため重点的にチェック
  • 2012.2 指導回数の定義見直し
  • 2020.4 新たな抽出方法により算出した薬剤管理指導実施率のシミュレーションと実態との整合性の精査
  • 2023.12 7階西病棟の専従薬剤師2名化に対する、薬物治療の質変化の精査

Act(改善)

  • 2013.9 病棟薬剤業務実施加算の算定開始
  • 2020.5 新たな抽出方法による薬剤管理指導実施率のデータ共有開始
  • 2022.3 薬剤師プログレスノートの改訂と、診療記録のオーディット体制変更
  • 専従化および薬剤師の職能を活かしたタスクシフト・シェアのさらなる推進

考察、改善に向けての今後の予定など

入院中患者への継続的な薬剤管理指導実施に向けて

2020年度以降の介入率は>95%を維持し、ほとんどの入院患者に対して入院中に少なくとも1回の薬剤管理指導を実施しております。一方、長期入院患者に対する継続的な薬剤管理指導体制は課題を残しております。今後、薬剤部内の業務を見直し(既存業務の機械・システム化やタスクシフト等)を行い、業務効率の改善を図ります。それにより、薬剤師による継続的な薬剤管理指導業務を通して、入院患者に対する安全かつ質の高い薬物治療管理へ寄与することを目指します。

参考文献

  • 1)恩田光子, 小林暁峯, 黒田和夫, 他:薬剤管理指導が患者アウトカムに与える効果に関する研究. 医療マネジメント学会雑誌. 医療マネジメント学会, 2004; 5(2): 349-353.
  • 2)恩田光子, 小林暁峯, 黒田和夫, 他:薬剤管理指導業務が臨床アウトカムに与える影響に関する研究. 病院管理. 2004; 41 (4): 255-262.
  • 3)Chisholm-Burns MA, Kim Lee J, Spivey CA, et al.: US pharmacists ’ effect as team members on patient care: systematic review and meta-analyses. Med Care. 2010; 48 (10): 923-933.
  • 4)木幡華子, 計良貴之, 田中恒明, 他:薬剤師の病棟配置が薬物療法の質および医療安全に与える影響. 日本病院薬剤師会雑誌. 2012; 48(2): 173-176.
  • 5)日本病院薬剤師会総務部:平成30年度 病院薬剤部門の現状調査 集計結果報告. 日本病院薬剤師会雑誌. 2019;55 (12): 1373-1423.

執筆者

後藤 一美
薬剤部長
安達 明央
薬剤部臨床薬剤室アシスタントマネジャー
医療の質
評価側面
Struc­ture Pro­cess Out­come
指標改善
パターン
医療従事者へのリマインド コミュニケーションの改善 監査とフィードバック 医療者への教育 患者への教育 患者へのリマインド 患者へのプロモーション 組織・体制の変更 ルールの変更

15 向精神薬を服薬中の外来患者の中で抗不安薬・睡眠導入薬・抗うつ薬・抗精神病薬を各2種類以下、かつ、抗不安薬と睡眠導入薬の合計を3種類以下に留めた割合 Percentage of outpatients taking psychotropic drugs with no more than two types of anxiolytics, hypnotics, antidepressants, antipsychotics and total of no more than three types of anxiolytics and hypnotics

向精神薬を服薬中の外来患者の中で抗不安薬・睡眠導入薬・抗うつ薬・抗精神病薬を各2種類以下、かつ、抗不安薬と睡眠導入薬の合計を3種類以下に留めた割合

当院値の定義・計算方法

分子
分母のうち、抗不安薬・睡眠導入薬・抗うつ薬・抗精神病薬を各2種類以下、 かつ、抗不安薬と睡眠導入薬の合計を3種類以下に留めた数
分母
抗不安薬・睡眠導入剤・抗うつ薬・抗精神病薬を含む外来処方箋の数

臨床的意義: なぜこの指標が医療の質を示しているのか

精神科・心療内科薬物治療において、薬剤の有効性を十分に引き出し、副作用を最小化するために重要なことの1つとして、多剤併用をできるだけ避けるということが知られています。

これまでの様々な研究において、処方をシンプルにすることのメリットとして、①有効な薬物の決定ができる、②副作用出現時の原因薬剤の特定ができる、③薬物相互作用の危険性を減らすことができる、④アドヒアランス(薬を飲み続けられること)がよくなる、⑤副作用が少なくなる、⑥医療費を削減できる、などの報告があります1)

以上のことより、当院では同効能の薬剤を複数種類使用することをできるだけ避けるよう、上記の指標を設けています。

Plan(計画)

  • 2017.8  リエゾンセンター(精神科・心療内科)にて、指標修正を検討開始
  • 2017.11 新指標の決定とデータ開示
    「抗不安薬・睡眠導入薬・抗うつ薬・抗精神病薬の外来処方において、それぞれを2種類以下に留めた率」 目標:100%
  • 2019.4  定義の見直し
    「抗不安薬・睡眠導入薬・抗うつ薬・抗精神病薬の外来処方において、それぞれを2種類以下、かつ、抗不安薬と睡眠導入薬の合計で3種類以下に留めた率」 目標:98%

Do(実行)

  • 2017.11 データを抽出し、状況を把握

Check(評価)

  • 2017.11 全診療科を対象にモニター開始
  • 2018.3  2種類以下に留めることができなかった当センター内事例の検討と他科処方医へのフィードバック
  • 2019.4  条件追加:抗不安薬・睡眠薬併せて3種類以下

Act(改善)

  • リエゾンセンター内の多剤併用についての問題意識の共有
  • 個別にケースを抽出し、減薬に向けての話し合い
  • 向精神薬多剤併用の他科へのフィードバック
  • 実数は一進一退微増で昨年度推移

考察、改善に向けての今後の予定など

減薬に向けて処方を改善・工夫し、患者側と対話を続けることが肝要

精神科・心療内科の薬物療法では、治療抵抗性統合失調症患者の抗精神病薬の多剤・大量療法、難治の不眠・不安症状を認めるベンゾジアゼピン系抗不安薬・睡眠薬の依存・乱用の問題などが以前より指摘されています2)3)4)。これを受けて行政も対応に乗り出し、多剤併用処方に対して、2014年以降の診療報酬改定により減算を重ねました。当院としても上記の取り組みを行い、一定の成果を得た一方で、どうしても減薬に至らないケースが少なからず残り、この問題の難しさを痛感しました。例えば、発症数十年来の統合失調症で病状は安定に至っており減薬の動機が乏しいケース、減薬への不安が大きく患者の同意が得られないケース、微量の減薬でも不眠が再燃してしまうケースなどが挙げられました。また、統合失調症以外にも、他施設で長年睡眠薬関係を継続処方されてきた方が当院に紹介された場合、急激に薬剤の内容を変えることは患者の病状悪化や、治療関係の構築にマイナスに作用する可能性があり、慎重な取り扱いが求められます。このため、薬剤は可能な範囲で漸減する方向ですが、当面複数の薬剤を併用せざるを得ない場合があります。患者さんに多剤併用の問題点を十分に理解していただけるよう説明を根気よく対話を続けることが肝要と考えます。

参考文献

  • 1)稲田 健,石郷岡 純:シンプル処方のすすめ,臨床精神医学.2014;43(1):5-10.
  • 2)橋本 亮太,安田 由華,藤本美智子,山森英長:統合失調症における多剤・大量療法の功罪―ガイドラインから―.精神神経学雑誌.2017;119(3):185-191.
  • 3)河野敏明,稲田健:わが国の精神科治療薬の多剤・大量・長期処方の現状と課題.薬局,2018;69(9):2812-2816.
  • 4)中川敦夫,他:向精神薬の処方実態に関する国内外の比較研究.厚生労働科学特別研究事業,2011.3

執筆者

太田 大介
心療内科部長
医療の質
評価側面
Struc­ture Pro­cess Out­come
指標改善
パターン
医療従事者へのリマインド コミュニケーションの改善 監査とフィードバック 医療者への教育 患者への教育 患者へのリマインド 患者へのプロモーション 組織・体制の変更 ルールの変更

16 免疫療法・化学療法により発症する B型肝炎のHBVキャリア・既感染者スクリーニング率

免疫療法・化学療法により発症する B型肝炎のHBVキャリア・既感染者スクリーニング率

当院値の定義・計算方法

分子
HBVキャリアスクリーニングを当月の対象薬剤初回実施日までに行った患者数 (HBs抗原検査を過去に1度でも実施した患者数)
分母
抗悪性腫瘍剤を使用した患者数(月毎の実患者数)

免疫療法・化学療法により発症するB型肝炎のHBV既感染者スクリーニング率

当院値の定義・計算方法

分子
HBV既感染者スクリーニングを当月の対象薬剤初回実施日までに行った患者数(HBs抗体とHBc抗体の両方を過去に1度でも実施した患者数)
分母
抗悪性腫瘍剤を使用した患者のうち、HBs抗原(+)以外の患者数(月毎の実患者数)

臨床的意義: なぜこの指標が医療の質を示しているのか

日本を含む東アジアは依然としてB型肝炎ウイルス感染症が蔓延しています。成人が感染しても多くの場合、肝炎を発症することなく自分の免疫で抑え込むことができます。しかし、様々な病気に罹患し免疫抑制剤を使用すると、以前感染したB型肝炎ウイルスが勢いを増し、命を奪うほど激症の肝炎を引き起こすことが知られています。これをB型肝炎ウイルス再活性化1)と言います。

特に生涯で2人に1人がかかる「がん」の治療においてこのB型肝炎ウイルス再活性化は大きな問題となります2)。アメリカではがん患者の慢性B型肝炎感染症と既感染の割合はそれぞれ0.6%、6.5%とさほど多くはありません3)。そのため抗がん剤を投与する前に必ずしもB型肝炎ウイルスのスクリーニング検査が全例で行われているわけではありません。一方、B型肝炎ウイルスの蔓延国である日本では、免疫抑制剤や抗がん剤を投与する前にHBs抗原検査とHBc抗体検査などでスクリーニング検査を行うよう日本肝臓学会がガイドラインを作成しています4)

そこで私たちは2011年から2020年まで当院で免疫抑制剤や抗がん剤を投与された患者のうち、HBs抗原検査およびHBc抗体検査施行率を毎月算出し、スクリーニング検査が行われていない場合には主科にフィードバックを行なっていました。

Plan(計画)

  • 2015 B型肝炎の再活性化予防
  • 2015 化学療法および免疫療法を行う前に、全例に対して6か月毎にHBs抗原、HBc抗体、HBs抗体を検査する
  • 2016 1年毎とした定義によるCDSS(Clinical Decision Support System)を導入する
  • 2016 「核酸アナログ剤」の投与漏れを予防する
  • 2017 過去に1度とした定義による対象者へのフィードバックを強化

Do(実行)

  • 2015 オーダーする主科に対して周知する
  • 2015 オーダー画面に「ケモ前」のセットを作成
  • 2016 1年毎とした定義によりデータを抽出
  • 2016 「核酸アナログ投与必須患者における未実施の通知」を開始。通知に対して、対象医師へ投薬確認(指示)を実施
  • 2017 オーダー医に対して個別に検査オーダーを依頼
  • 2017 診療科カンファレンスで他職種へも協力を依頼(オンコロジーセンター)

Check(評価)

  • 2015 各科毎に達成率を評価する
  • 2015 オーダーが多く、達成率の低い主科を中心に個別にフィードバックを行う(腫瘍内科、小児科、消化器センター)
  • 2016 通知対象者データを確認
  • 2016 対象患者に投与されたことを確認
  • 2017 フィードバックを行った診療科の改善率を評価

Act(改善)

  • 2015 指標の見直しについて検討
    全化学療法を対象とし、6か月→1年毎にHBs抗原、HBc抗体、HBs抗体を検査する
  • 2016 1年毎とした定義によるCDS導入は不適切と判断
    ⇒再活性化予防の通知は別件で導入検討を継続する
  • 2016 「核酸アナログ投与必須患者における未実施の通知」継続
  • 2016 指標の見直しについて検討:検査歴の判定を1年毎→過去に1度とする

考察、改善に向けての今後の予定など

施行率の低い診療科へのフィードバックを充実させ、100%の施行率達成へ

QI活動を通じて、2011年から2022年までにHBs抗原検査とHBc抗体検査施行の割合はそれぞれ、93.4%から98.8% (p<0.001)、4.0%から84.0% (p<0.001)に有意に改善されました。診療科ごとの施行率は図の通りであり、今後は施行率の低い診療科へのさらなるフィードバックにより100%の施行率を達成させる予定です。

図1. 診療科別のHBs抗原検査施行率

図2. 診療科別のHBc抗体検査施行率

参考文献

  • 1)Perrillo, Robert P., Robert Gish, and Yngve T. Falck-Ytter. “American Gastroenterological Association Institute Technical Review on Prevention and Treatment of Hepatitis B Virus Reactivation during Immunosuppressive Drug Therapy.” Gastroenterology 148, no. 1 (January 2015): 221-244.e3.
  • 2)Torres, Harrys A., and Marta Davila. “Reactivation of Hepatitis B Virus and Hepatitis C Virus in Patients with Cancer.” Nature Reviews. Clinical Oncology 9, no. 3 (January 24, 2012): 156–66.
  • 3)Ramsey, Scott D., Joseph M. Unger, Laurence H. Baker, Richard F. Little, Rohit Loomba, Jessica P. Hwang, Rashmi Chugh, et al. “Prevalence of Hepatitis B Virus, Hepatitis C Virus, and HIV Infection Among Patients With Newly Diagnosed Cancer From Academic and Community Oncology Practices.” JAMA Oncology, January 17, 2019.
  • 4)B型肝炎治療ガイドライン(第4版)日本肝臓学会

執筆者

森 信好
感染症科管理医長
医療の質
評価側面
Struc­ture Pro­cess Out­come
指標改善
パターン
医療従事者へのリマインド コミュニケーションの改善 監査とフィードバック 医療者への教育 患者への教育 患者へのリマインド 患者へのプロモーション 組織・体制の変更 ルールの変更
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