4看護Medication

9 褥瘡発生率 Incidence of pressure injury

褥瘡発生率

当院値の定義・計算方法

分子
分母対象患者のうち、d2以上の褥瘡の院内新規発生患者数
分母
入院延べ患者数
分子包含
院内で新規発生の褥瘡(入院時刻より24時間経過後の褥瘡の発見または記録)、深さd2以上の褥瘡、壊死組織で覆われ深さの判定が不能な褥瘡、深部損傷褥瘡疑い
分母除外
日帰り入院患者(同日入退院患者も含む)・入院時既に褥瘡保有の記録がある患者*1・対象期間より前に褥瘡の院内発生が確認されている継続入院患者*2、の入院日数
*1 院内での新規発生に限定
*2 既に褥瘡が発生している患者を除き、対象期間内に院内で新規発生した患者に限定

参考値の定義・計算方法

同上(当院定義と同じ)

深さ

d0 皮膚損傷・発赤なし
d1 持続する発赤
d2 真皮までの損傷
D3 皮下組織までの損傷
D4 皮下組織をこえる損傷
D5 関節腔、体腔に至る損傷
DU 壊死組織で覆われ深さの判定が不能
DTI 深部損傷褥瘡疑い

臨床的意義: なぜこの指標が医療の質を示しているのか

褥瘡は、患者のQOL(quality of life:生活の質)の低下をきたすとともに、感染を引き起こすなど治癒が長期におよぶことによって、結果的に在院日数の長期化や医療費の増大にもつながります。そのため、看護ケアの質評価の重要な指標として捉えられており、「インシデントを防ぐ」という領域の患者アウトカム(有害事象)として挙げられています1)。アメリカの米国看護協会の一組織であるAmerican Academy of Nursingでは、マグネットホスピタル選考要件の質評価項目の「有害事象」として、転倒・転落やカテーテル関連尿路感染症などの指標と共に、褥瘡発生率が示されています2)

日本では、褥瘡予防対策は提供する医療の重要な項目の1つにとらえられ、入院基本料の施設基準として褥瘡対策を行うことが算定要件となっています。褥瘡の予防・治療のための計画に基づく総合的な褥瘡対策を実施した場合に算定できる褥瘡ハイリスク患者ケア加算は2006年に開始されました。2018年の診療報酬改定では算定要件に「皮膚に密着させる医療関連機器の長期かつ持続的な使用が必要であるもの」が追加され、自重の褥瘡だけでなく医療関連機器圧迫創傷(Medical Device Related Pressure lnjuary:MDRPI)も含めた予防ケアや管理などの対策の必要性が高まっています。2022年からは褥瘡対策の診療計画に薬学的管理及び栄養管理に関する事項も追加され、必要時薬剤師や管理栄養士と連携を図り、褥瘡対策を実施することが必要になっています。

当院では、より正確なデータ抽出のため日本病院会の褥瘡発生率の計算式を採用しており、電子カルテのデータから月毎の褥瘡発生率を算出しています。

  • 2007年 QI委員会指標として計測開始
  • 2012年 目標値0.07%に設定
  • 2017年 電子カルテデータから褥瘡発生患者リストの作成を開始

Plan(計画)

  • 褥瘡発生リスクの高い患者に適切な対応を実施し、褥瘡を予防する
  • 褥瘡が発生した患者に適切に対応し、早期治癒に導く
  • チーム医療の展開により、院内の褥瘡対策・スキンケアの充実と啓発に努める
  • 褥瘡発生率の減少に努める
  • 医療関連機器圧迫創傷の発生率の減少に努める

Do(実行)

予防管理

  • 体圧分散寝具のインベントリーによる在庫管理、新規購入マットのトライアルと機種選択、マットレスの特徴と適応患者等の周知
  • ロボティックマットレスの教育目的での運用計画を作成し、実施、評価
  • 褥瘡や医療関連機器圧迫創傷の予防ケアとして貼付材・保湿剤等の周知、使用例の紹介(2019年~クッションドレッシング材導入)
  • 圧抜きや摩擦の少ない移乗方法の周知、使用方法の勉強会開催(2019年~スライディンググローブ導入)
  • スキンケアの方法・用品の見直しと周知(2020年~全身洗浄液の導入)
  • 褥瘡ハイリスク患者に対するNST介入

褥瘡の治療、ケア方法の検討

  • 褥瘡保有者の把握及び早期に治癒に導くための対策の検討
  • 各部署内の工夫や取り組みを共有し、院内の褥瘡対策・スキンケアの質向上の検討
  • 症例検討、褥瘡回診、褥瘡サーベイによる褥瘡ケアの評価と検討

記録、データ管理

  • 毎月褥瘡発生率を算出する際に使用するテンプレートの見直し・修正を行い正確な記載の徹底
  • 褥瘡に関するテンプレート類の記載方法の周知、診療報酬改定に伴うテンプレートの改訂
  • 褥瘡ハイリスク患者のデータをNSTと共有

ラウンド・会議

  • 褥瘡対策チームによる週1回の褥瘡回診の実施
  • Magnet Recognition 更新要件であるNDNQI®(全米看護の質指標データベース:the National Database of Nursing Quality Indicators®)の褥瘡サーベイを四半期毎に実施
  • 褥瘡ケア検討会の月1回開催(2023年度メンバー56名)

教育

  • 院内クラスを開催し、褥瘡予防に関する知識・技術習得にむけた研修の実施
  • スタッフの褥瘡予防に関するブラッシュアップのための勉強会を企画
  • 学研メディカルサポート ビジュアルナーシングメソッド 皮膚・排泄ケア領域の看護手順の作成

Check(評価)

予防管理

  • 毎月電子カルテから抽出したデータから算出し、看護部にフィードバック
    ①褥瘡対策に関する診療計画書作成率
    ②体圧分散寝具使用率
    ③褥瘡発生率
  • 四半期毎の褥瘡サーベイで褥瘡保有者および全入院患者の褥瘡に関する記録の確認し、各会議対でフィードバック

Act(改善)

  • 自重の褥瘡に対する予防ケアとして使用する貼付剤の採用の検討
  • MDRPIの発生の予防に向けた各部署の取り組みの共有とフィードバックの継続

考察、改善に向けての今後の予定など

多職種協働で予防・管理へ取り組む

褥瘡は、看護ケアの質評価の指標の1つに挙げられています。そして、創傷の一部としてとらえられており、局所管理だけでなく全身管理が必要な疾患に属しています。したがって、褥瘡の予防・管理に対しては、組織の医療従事者がチームとなって働きかけるようになっています。当院でも褥瘡対策チームを組み、医師・看護師・栄養士・薬剤師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・ソーシャルワーカーと協働で、褥瘡管理に取り組んでいます。

2014年度は褥瘡の記録(テンプレート)の見直しを行い、電子カルテ上の褥瘡記録と手書きの褥瘡発生報告データの整合性を確認しながら、電子カルテの記載データから褥瘡発生率の算出が行えるか検討をしました。その結果、褥瘡に類似する皮膚障害などとの鑑別が困難な場合があり、2014年度は電子カルテ上から発生率の自動的な算出は見送ることになりました。2015年度から2016年度にかけては、電子カルテの記載内容のチェックを行い、各部署へのフィードバックを継続、2016年12月には褥瘡テンプレートをデータ収集がしやすいよう見直し、修正を行いました。

2016年度中に、電子カルテ上に記載されたテンプレートの内容から褥瘡発生率の算出が可能と判断できたため、2017年度からは電子カルテの記載内容から褥瘡発生率の算出を開始しました。具体的には褥瘡記録が書かれた1か月分(先月分)の褥瘡テンプレートの全データをパスワード付きで月初に提供して貰い、そのデータを検討会メンバーが自部署で記載された全テンプレートの記載内容を確認し、決められた期日までに必要時修正を行います。その後、改めてデータの集計を医療情報課で行い、褥瘡発生率の算出を行っています。

また、2015年度からはNDNQI®に褥瘡関連データを提出し、ベンチマーク調査を行っています。そして2019年には評価項目の水準をクリアしMagnet Hospitalとして認証されました。

今後、褥瘡発生リスクが高い患者に対する予防ケア、記録(アセスメント)の有無をチェックし各部署へのフィードバックを図ることで、自部署で行われているケアの実施状況を把握し改善策を講じていく予定です。

2018年度の診療報酬改定で褥瘡ハイリスク患者ケア加算の対象患者に【皮膚に密着させる医療関連機器の長期かつ持続的な使用が必要であるもの】が追加されたことを受け、2019年度にMDRPI予防としてクッションドレッシング材を院内採用し使用開始しました。さらに背抜き、圧抜き、体位変換が容易に実施できる背抜きグローブの使用を開始し、効果的な褥瘡予防ケアの実施に努めています。

2020年度COVID-19の感染拡大予防を目的として全身洗浄液を院内採用し、ケアの簡便化および時間の短縮が可能となりました。また2020年12月日本褥瘡学会よりDESIGN-R®20207)が出され、DTI(深部損傷褥瘡:Deep Tissue Injury)やクリティカルコロナイゼーション(臨界的定着)が追加されたため、電子カルテ上のテンプレートの改訂を行いました。さらにクリティカルコロナイゼーションの状態にある創傷の治癒促進のため、院内採用の抗菌性創傷被覆材をより効果の高い製品に変更をしました。

2021年度からは褥瘡ハイリスク患者・褥瘡保有者の情報をNSTと共有しはじめました。より一層多職種との連携を強化し、褥瘡予防に取り組み褥瘡発生率の減少を目指します。

参考文献

執筆者

黒木 ひろみ
皮膚・排泄ケア認定看護師/特定看護師/6Wナースマネジャー
近藤 玲加
褥瘡管理者/皮膚・排泄ケア認定看護師/看護管理室
医療の質
評価側面
Struc­ture Pro­cess Out­come
指標改善
パターン
医療従事者へのリマインド コミュニケーションの改善 監査とフィードバック 医療者への教育 患者への教育 患者へのリマインド 患者へのプロモーション 組織・体制の変更 ルールの変更

10 褥瘡発生リスクの高い人に対する体圧分散寝具の使用率(処置実施率)

褥瘡発生リスクの高い人に対する体圧分散寝具の使用率(処置実施率)

当院値の定義・計算方法

分子
リスクが高い期間の処置実施数
分母
該当月の入院患者のうち、「褥瘡対策に関する診療計画書(入院時)」などブレーデンスケール14点以下の患者の入院日数(ブレーデンQスケールは16点以下)
分母除外
3E・3W病棟入院患者、診療科が宿泊ドック・産科クリニックの患者

臨床的意義: なぜこの指標が医療の質を示しているのか

入院時に褥瘡危険因子評価とブレーデンスケール(8歳未満はブレーデンQスケール)を使用して褥瘡発生のリスクアセスメントを行い、必要な患者に対して看護計画を立案しています。

日本褥瘡学会において褥瘡発生率を低下させるために体圧分散寝具の使用を強く勧めています1)。そこで当院の褥瘡予防のプロセス指標として褥瘡発生のリスクが高い患者に対する体圧分散寝具の使用率を取り上げています。この指標から、褥瘡発生リスクの高い患者に対して必要な体圧分散寝具を使用するという予防対策がとられていたか、予防的介入が行えていたかどうかをみることができます。

2011年度は体圧分散寝具を使用する看護計画が立案されているかどうかをみていました。

2012年度は入院時のリスクアセスメントの結果、リスクが高い患者に対して実際に体圧分散寝具を使用したかどうかの使用率(処置実施率)をプロセス指標として取り上げました。

2013年度からは入院時だけでなく、入院期間中に褥瘡関連のテンプレートに記載されたすべてのブレーデンスケールの結果をもとに、褥瘡発生リスクが高い患者、また褥瘡を有する患者に対して体圧分散寝具の処置実施を行っていたかを指標に取り上げました。

  • 2012年 QI委員会指標として計測開始。目標値80%に設定。
  • 2013年 目標値を85%に設定
  • 2014年 目標値を87%に設定
  • 2015年 目標値を90%に設定

Plan(計画)

  • 褥瘡予防ケアの一つである体圧分散寝具を適切に使用し、褥瘡発生率の減少に努める
  • 体圧分散寝具の機能を活かした褥瘡予防ケアを周知する
  • 褥瘡発生リスクの高い患者や褥瘡保有者に適切な体圧分散寝具が使用できるよう在庫管理を行う

Do(実行)

  • 年1回、当院で保有している全高機能体圧分散寝具のインベントリー実施
  • 当院で保有している高機能体圧分散寝具の一部が製造中止および修理不能となることを受け新たな機種のトライアルを実施
  • 体圧分散寝具の特徴および使用上注意点など記載した資料の作成と周知
  • 2012年 体圧分散寝具の使用における電子カルテへの記録開始
  • 2014年 従来の高機能体圧分散寝具に加え、自動体位変換機能付き高機能体圧分散寝具の導入開始
  • 2015年 すべての高機能体圧分散寝具に対して個体識別が可能なバーコードを貼付し電子カルテへの記録運用開始。これに伴い部署管理から院内一括保管管理に変更
  • 2018年 ロボティックマットレス導入
  • 2019年 高機能体圧分散寝具を5台追加購入
  • 2020年 経年劣化し修理不能となった体圧分散寝具を補填するため15台追加購入
  • 2021年 15台追加購入
  • 2022年 部署での使用実績を踏まえ全高機能エアマットレスの保有台数と不足台数を計上し、新たに機種選定を行い18台追加購入

Check(評価)

  • 毎月電子カルテから抽出したデータから算出し、体圧分散寝具使用率を看護部にフィードバック
  • 四半期毎の褥瘡サーベイを実施し、体圧分散寝具の使用の有無を確認

Act(改善)

  • 患者に適した高機能体圧分散寝具の設定や機種の周知
  • 新たな高機能体圧分散寝具採用の検討
  • 褥瘡発生の予防に向けたフィードバックの継続

考察、改善に向けての今後の予定など

患者の特性を考慮したマットレスの選択と、より効果的な活用方法を検討

2012年度から電子カルテ上で体圧分散寝具の処置実施入力を開始していますが、全部署がほぼ目標値を達成できています。

褥瘡発生予防のプロセス指標としてこの指標を採用し目標値は達成していますが、褥瘡発生率は目標値に達していないため、高機能体圧分散寝具への切り替えのタイミングが適切であるのかなど、他の視点も組み合わせて予防ケアが実施されているのかを確認していく必要があると考えています。

2016年度から2017年度にかけて高機能マットレスのメンテナンスを褥瘡ケア検討会のメンバーと物品管理センターとで協力して行いました。

2018年にロボティックマットレスを導入し、褥瘡ケア検討会メンバーが中心となって新入職員の教育に利用したり、各部署をローテーションさせて、体位による体圧の変化を視認させることで、除圧に有効な体位変換を習得できるよう活用しています。

2020年度に当院で保有している高機能体圧分散寝具の一部が製造中止および修理不能となることを受け、新たな機種のトライアルを実施し検討しています。褥瘡発生リスクの高い患者に不足なく使用できるよう調整しています。

寝具の特徴と患者の状態に応じた選択がしやすくなるよう、2021年には褥瘡ケア検討会が当院にある4種類の高機能体圧分散寝具の使い分け表や特徴をまとめた一覧を作成しました。

2023年度は経年劣化していた標準マットレス(ウレタンフォームマットレス)をすべて入れ替えしました。

今後は高機能体圧分散寝具の種類が増えたため、患者毎の褥瘡の状態や発生リスクに合う最適なマットレスが使用できるよう、各マットレスの特徴や適切な使用方法について周知していきます。

参考文献

  • 1)日本褥瘡学会編:褥瘡予防・管理ガイドライン 第5版. 照林社, 2022.4

執筆者

黒木 ひろみ
皮膚・排泄ケア認定看護師/特定看護師/6Wナースマネジャー
近藤 玲加
褥瘡管理者/皮膚・排泄ケア認定看護師/看護管理室
医療の質
評価側面
Struc­ture Pro­cess Out­come
指標改善
パターン
医療従事者へのリマインド コミュニケーションの改善 監査とフィードバック 医療者への教育 患者への教育 患者へのリマインド 患者へのプロモーション 組織・体制の変更 ルールの変更

11 入院患者のせん妄評価率・発症率(70歳以上) Delirium rating rate / Delirium incidence rate – inpatient

【Process】入院患者のせん妄評価率(70歳以上)

【Outcome】入院患者のせん妄発症率(70歳以上)

当院値の定義・計算方法

せん妄評価率(70歳以上)

分子
70歳以上せん妄スクリーニング(DST)を1回以上評価した人数
分母
70歳以上全入院患者数

せん妄評価率(70歳以上)

分子
70歳以上せん妄スクリーニング(DST)でせん妄ありと判定された人数
分母
70歳以上でDST評価をされている患者数

臨床的意義: なぜこの指標が医療の質を示しているのか

せん妄は、注意、認知、および意識レベルが急性かつ一過性に今日害される病態で、ほぼすべての疾患および薬剤が原因となり得ます1)。あらゆる年齢で起こりますが、高齢者でより多く見られます。また、急性期病院では、身体基礎疾患の重症度、人工呼吸管理をはじめとした不慣れで苦痛を感じる医療処置、薬剤使用などによってせん妄の発生頻度が高くなります。せん妄の発症率は、一般床で10~14%、集中治療室で19~82%という研究報告があります2)

せん妄を体験した患者のインタビューから、患者は恐怖や逃亡のストーリーを体験し、その状況から逃げられない恐怖や苦痛、周囲とコミュニケーションを図る難しさを感じていることがわかっています3)。せん妄は患者にとって心理的に大変つらい体験です。

また、せん妄を発症する患者は、発症しない患者と比較して、外傷や転倒、感染などの有害事象が多いことが報告されています。せん妄の発症により、予定されていた治療やケアの進行が妨げられ、回復が遅延し入院期間が延長することになります4)。せん妄の患者に対応するために他の業務を中断すると、仕事の段取りが狂い、他の患者への対応が十分にできなくなります。せん妄は医療者にとっても大きなストレスとなり、業務上の事故が生じやすくなります。

一方で、せん妄の発症には複数の因子が関係していることがわかってきています。因子のリスクの程度や因子の数の重なり合いからリスクをアセスメントし、せん妄の発症を予防することは、治療を計画通りに進め、医療費を適切化し、有害事象を減少させ、患者と医療者が安心できる医療環境をもたらします。

Plan(計画)

  • 2013年 せん妄対策の状況を分析
  • 2014年 せん妄の実態調査実施
  • 2015年 せん妄アルゴリズムの普及・徹底
    アルゴリズムの評価
  • 2016年 アルゴリズムの検証と改善
    せん妄ケアの充実
  • 2019年 せん妄予防ケアの充実
    せん妄予防と対応ガイドの周知
  • 2020年 せん妄予防ケアの充実
    せん妄ハイリスク患者ケア加算の取得

Do(実行)

  • 2014.11 せん妄関係者ミーティング発足
  • 2015.1~3 せん妄の予防と対応アルゴリズムの作成
  • 2015.4 アルゴリズム運用開始
  • 2015.5~7 全職員対象医療安全勉強会開催
  • 2016.2 アカデミア発表
  • 2016年度 QIとして公表開始
    せん妄リンクナースの活動展開
    せん妄ラウンドの検討
    院内デイケアプログラム トライアル開始
  • 2017年度 せん妄予防・認知症ケアプロジェクト活動開始
  • 2018年度 せん妄予防ケアガイドの作成
  • 2019年度 みんなの安心プロジェクト 活動開始
    せん妄予防と対応ガイド 運用開始
  • 2020年度 せん妄ハイリスク患者ケア加算 取得開始
    せん妄予防・認知症ケアガイドブック
    ―本人・家族・職員 みんなの安心と笑顔のために― 院内に配布
  • 2021年度  せん妄ハイリスク患者ケア加算取得定着
    せん妄予防ケアの充実

Check(評価)

  • せん妄評価率
  • せん妄発症率
  • せん妄患者の転倒転落傷害発生り率
  • せん妄患者のチューブ類自己抜去率
  • 入院患者へのベンゾジアゼピン系薬剤の使用率

Act(改善)

  • せん妄予防ケアの充実
  • せん妄予防と対応ガイドの再周知
  • 薬剤使用に関する院内ガイドライン再検討
  • QI算出条件の見直し

考察、改善に向けての今後の予定など

アルゴリズム導入により指標が改善。
せん妄に対しては多職種協働で予防ケアに取り組む

アルゴリズム導入から1年経過した2016年5月より、QI委員会でも、せん妄に関するQI指標の提示をはじめ、院内全体へのフィードバックを始めました。

とくに70歳以上の高齢者のせん妄対策に重点を置き、予防策としてせん妄評価率とベンゾジアゼピン系薬剤の使用率をプロセス指標として、せん妄発症率、せん妄患者のインシデント発生率(転倒転落・チューブ類自己抜去)をアウトカム指標として、院内全体へフィードバックを続けています。2021年度は「せん妄予防・認知症ケアガイドブック―本人・家族・職員 みんなの安心と笑顔のために―」や「せん妄予防と対応ガイド」に基づいたせん妄予防ケアのさらなる充実に取り組みました。

プロセス指標は引き続き良好な結果であり、せん妄発症因子のアセスメントおよび除去・軽減に向けた取り組みが実践できていると思われます。アウトカム指標のせん妄発症率は2020年度以降低下しており、適切なスクリーニングのもと、せん妄と判断された患者には迅速な対応を継続できていると考えます。転倒転落発生率は、2022年度上昇に転じていますが、患者影響レベルⅢb以上の有害事象は発生していません。これは、せん妄予防ケアの実践やせん妄患者への対応が効果的に行われていることを反映していると考えます。

一方、挿入物ありのせん妄患者数・チューブ類の自己抜去率は2022年度は減少しましたが、70歳以上のせん妄ありと判断された患者の身体拘束実施率も増加しており、身体拘束を実施していながら自己抜去が発生しているのが現状です。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者受け入れとその感染防止の観点から、患者の見守り等の身体拘束に代わる取り組みを十分に実践できなかったことが背景にあると考えられます。

また、チューブ類そのものが招く患者の不快感、チューブ類挿入に伴う身体拘束は、それ自体がせん妄の原因となります。不要な挿入物の早期抜去や、身体拘束を回避するなどの対策はせん妄予防ケアとして重要ですが、治療上必要な場合は患者の苦痛除去が十分に行えない状況が継続します。困難な課題ではありますが、次年度も動向を追っていく予定です。高度急性期病院としての役割を果たすとともに、多職種協働でせん妄予防に取り組んでいきたいと考えています。

参考文献

  • 1)Inouye SK,Westendrop RG,Saczynski JS:Delirium in elderly people.Lancet 383:911-922,2014
  • 2)MDSマニュアル プロフェッショナル版:07-神経疾患,せん妄および認知症,せん妄,2020
  • 3)中村孝子,綿貫成明:せん妄を発症した患者に対する理解と回復へのケア-患者の記憶に基づいた体験内容とその影響に関する文献レビュー(1996-2007),国立病院看護研究学会誌7(1):2-12,2011
  • 4)日本精神神経学会監訳:米国精神医学会治療ガイドライン せん妄,医学書院,2000

執筆者

嶽肩 美和子
QI委員会副委員長/8Wナースマネジャー
医療の質
評価側面
Struc­ture Pro­cess Out­come
指標改善
パターン
医療従事者へのリマインド コミュニケーションの改善 監査とフィードバック 医療者への教育 患者への教育 患者へのリマインド 患者へのプロモーション 組織・体制の変更 ルールの変更

12 身体拘束実施率 Physical restraint implementation rate

身体拘束実施率

当院値の定義・計算方法2)

分子
分母のうち(物理的)身体拘束を実施した延べ患者数
分母
入院延べ患者数
分子対象
  1. 徘徊しないように、車椅子や椅子、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
  2. 転落しないように、ベッドに体幹四肢をひも等で縛る。
  3. 自分で降りられないように、ベッドを柵(サイドレール)で囲む。
  4. 点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、四肢をひも等で縛る。
  5. 点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、または皮膚をかきむしらないように、手指の機能を制限するミトン型の手袋等をつける。
  6. 車椅子からずり落ちたり、立ち上がったりしないように、Y字型拘束帯や腰ベルト、車椅子テーブルをつける。
  7. 立ち上がる能力のある人の立ち上がりを妨げるような椅子を使用する。
  8. 脱衣やおむつはずしを制限するために、介護衣(つなぎ服)を着せる。
  9. 他人への迷惑行為を防ぐために、ベッドなどに体幹や四肢をひも等で縛る。
  10. センサー類の装着 *当院が独自に対象としている

参考値の定義・計算方法1)

分子
分母のうち(物理的)身体拘束を実施した延べ患者数
分母
入院延べ患者数

臨床的意義: なぜこの指標が医療の質を示しているのか

身体拘束は基本的人権を侵害する行為です。また、身体拘束には、人権侵害のほかにも、身体的・精神的にさまざまな弊害があることがわかっています。日本では1998年から身体拘束禁止の取り組みが行われてきました。2000年には厚生労働省による「身体拘束ゼロ作戦」が発足し、介護施設での身体拘束は禁止となっています3)

一方、急性期病院では事故防止・安全が第一義とされます。事故が起これば、本人も家族も、また医療者も切望する疾病の治癒・回復が遅延するからです。非拘束下での事故では、担当看護師が責任を追及されているような気持ちになることもあります。身体拘束は人権尊重の立場から行うべきではないとわかっていても、治療を進めるため、安全を確保するために、ほかに方法がないと考え拘束を行っています。

身体拘束を回避するには、患者の苦痛や不快を除去する治療やケア、日常性を保持して患者に安心を提供する関わり、看守りや病室内環境の工夫などの複合的な実践が効果的です。そのために患者に関わる多職種で、よりよい実践について日々検討することが重要です。身体拘束をしない医療は、多職種の知恵を結集した実践の成果であり、質の高いチーム医療の象徴といえるでしょう。患者の尊厳の保持や安心のために、身体拘束最小化は最重要課題であり、院内全体で取り組むことに大きな意義があります。

Plan(計画)

  • 身体拘束の最小化
  • 身体拘束を許容する組織文化を変革する
  • 身体拘束実施率 2023年度目標
    一般病床:10%以下 ※離床キャッチ・マット除く
    集中治療領域:35%以下

Do(実行)

  • 身体拘束実施状況の把握(身体拘束三原則の適応か否か)
  • 病棟カンファレンス、事例検討の推進(看護部プロジェクトメンバーの介入)
  • みんなの安心プロジェクト(多職種協働プロジェクト)活動開始
  • 臨床倫理、身体拘束に関する学習会実施
  • 身体拘束に代わる方法の提案、実践
  • 患者の日常性を維持するための実践
  • 患者の「快」刺激を増やすための実践
  • 身体拘束テンプレートの利用促進
  • ユマニチュードの実践促進

Check(評価)

  • せん妄発症率、せん妄患者の転倒、自己抜去発生率を合わせてモニタリング
  • 患者満足度調査(傾聴・説明・ナースコール対応)を合わせてモニタリング

Act(改善)

以下の活動を推進することにより、身体拘束実施率の大幅な低下を目指す

  • 身体拘束の代替ケアを充実し実践できる
  • 部署特有の課題の対策を検討
  • 身体拘束テンプレートをもとに、カンファレンスを日常的に実践
  • 各職種に必要な学習機会の提供

考察、改善に向けての今後の予定など

身体拘束をしない医療で、患者の尊厳の保持や安心を目指す

2018年度よりQI指標として取り上げ、身体拘束最小化プロジェクト(現在はみんなの安心プロジェクトに吸収)始動後、身体拘束実施率は低下しましたが、2022年度以降は上昇に転じています。当院は、東京都救命救急センターとしての役割や特定機能病院の特性上、治療を行うために必要な安全を確保しなければならない場合があり、身体拘束最小化と最適化を進めていくことが重要と考えています。高齢者ケアチームのラウンド・コンサルテーションや、各部署における日々の検討・実践は強化されていますが、いまだ身体拘束の代替方法や患者の「快」刺激を増やす実践は不十分であり、教職員の英知を結集した取り組みが期待されます。部署・診療科における課題を多職種で共有し、People-Centered Careを具現化する取り組みを展開していきたいと考えています。また、継続して臨床倫理を学ぶ機会を提供し、医療・看護を倫理的視点で考え実践できる組織を目指します。

参考文献

  • 1)HBIPS-2 Hours of physical restraint use. Joint Commission National Quality Core Measures
  • 2)厚生労働省【身体拘束ゼロへの手引き】-東京都福祉保健局
    https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/zaishien/gyakutai/torikumi/doc/zero_tebiki.pdf
  • 3)日本看護倫理学会,臨床倫理ガイドライン検討委員会,「身体拘束予防ガイドライン」,P3,2015.
  • 4)日本老年看護学会:「急性期病院において認知症高齢者を擁護する」日本老年看護学会の立場表明2016,P5,2016.

執筆者

嶽肩 美和子
QI委員会副委員長/8Wナースマネジャー
医療の質
評価側面
Struc­ture Pro­cess Out­come
指標改善
パターン
医療従事者へのリマインド コミュニケーションの改善 監査とフィードバック 医療者への教育 患者への教育 患者へのリマインド 患者へのプロモーション 組織・体制の変更 ルールの変更
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