3報告・記録Reports
and Records

7 2週間以内の退院時サマリー作成率、48時間以内の手術記録作成率 Completion of discharge summary within 2 weeks, Completion of operative record within 48 hours

2週間以内の退院時サマリー作成率

当院値の定義・計算方法

分子
担当医が2週間以内に退院時サマリーを作成した件数
分母
退院患者件数(宿泊ドック患者を除く)

参考値の定義・計算方法

財団法人日本医療機能評価機構発行
病院機能評価データブック2022
2021年度 公表数値

48時間以内の手術記録作成率

当院値の定義・計算方法

分子
手術室退室後48時間以内に手術記録が作成された件数
分母
手術実施件数(日帰り手術は除く)

臨床的意義: なぜこの指標が医療の質を示しているのか

退院時サマリーと手術記録は、必要なことを簡潔に作成医以外の医療者と情報共有するために作成されます。退院時サマリーとは単なる入院中のまとめではなく、患者の病歴や、外来・前医での診療の経緯、退院後の留意点など患者と患者を取り巻く状況・環境を含めて作成するものです。また、手術記録も術中所見や手技だけでなく、出血量や検体の種類と数、手術時間、麻酔時間などの情報を含めて記載し、内容が完結するように作成します。

退院後に自施設で外来受診を継続する場合や他施設へ転院する場合、訪問看護を受ける場合など、患者の診療とケアの内容を正確に把握し、伝えられるようにしなければなりません。ゆえに、退院時サマリーや手術記録を一定期間内に作成することは、患者の治療効率向上や病院全体のチーム医療の質向上につながります。

2週間以内の退院時サマリー作成率

Plan(計画)

  • 2005 測定開始
  • 2006.12 「新医師臨床研修評価に関する研究会」(現NPO法人卒後臨床研修評価機構)より、早急に改善すべき点との指摘
  • 2014.4 診療報酬改定(診療録管理体制加算の要件変更)にて退院後2週間以内の承認率90%以上が条件となり、目標を90%以上に設定
  • 2015.2 各診療科における研修医教育の責任者としてEducational Chief(以下EC)を選出し任命
  • 2016~2017 医師全体へ早期作成についての啓発活動と意識改革
  • 2018~承認率を100%に近づけることを目標に設定

Do(実行)

  • 2005 退院時サマリーをA4サイズ1枚に制限
  • 2008.4 退院時診断名付与基準を作成し、診療科ごとにレクチャーの機会を設置
  • 2011 担当医による退院時サマリー作成期限を退院後1週間以内に設定し退院時サマリーの作成期限を厳守できなかった診療科への診療情報の二次利用を停止
  • 2012.7 JCI受審を契機に退院時サマリーに必要項目や書くべき内容について、各会議で啓発活動を実施
  • 2013.4 主治医による退院時サマリー承認期限を退院後2週間以内に設定
  • 2014.4 効率的な退院時サマリー作成方法などについての資料を作成し、各診療科や個別に指導教育を実施
  • 2014.11 教育研修部と連携し退院時サマリー督促のタイミングや手順などについて具体的に検討
  • 2015.2 ECによる研修医への退院時サマリー作成を含む指導の開始
  • 2016 期日間近の退院時サマリーを担当診療科全体へ適宜通知
  • 2017 作成率の低い診療科へ作成状況をフィードバック
  • 2017~研修医が出席する会議と研修医を管理する委員会で退院時サマリー作成状況報告を定期的に実施
  • 2018 退院後5日目以降の退院時サマリーについて担当診療科全体へ毎日通知
  • 2018 ECや特定の診療科へ作成状況(作成率推移や作成医別作成率)をフィードバック
  • 2019~新入職医師のオリエンテーションにて退院時サマリー作成についてレクチャー
  • 2021 退院後4日目以降の退院時サマリーについて担当診療科全体へ毎日通知 (通知対象を以前の退院後5日目以降から4日目以降に変更)
  • 2023 内科系病棟長へ病棟別の退院時サマリー未作成状況を毎日通知
    入職時オリエンテーション資料の見直しを実施

Check(評価)

  • 2012.4 「退院後1週間以内作成率」をQI委員会指標とし、毎月状況を報告
  • 2013.4 退院後2週間以内の承認率を診療科別・医師別に定期的に院内で公表
  • 2014.5 退院後2週間以内の承認率と承認状況を毎週院長へ報告
  • 2014.5~退院後2週間以内の承認率90%以上を維持
  • 2015.2~ECミーティングを月1回開催し、研修医の退院時サマリー作成状況で指導方法を検討
  • 2022 記載医別の作成件数・承認率を各診療科へ適宜報告

Act(改善)

  • モニタリング継続
  • 督促の強化

48時間以内の手術記録作成率

Plan(計画)

  • 2005 測定開始
  • 2015.3 術後24時間以内の手術記録作成リストにて診療科別や個別の作成傾向を分析把握
  • 2016.9 手術記録作成状況リスト抽出ツールを作成
  • 2017 定期的にモニタリングを行う担当者を配属
  • 2018 術後24時間以内の手術記録作成率を95%以上に設定

Do(実行)

  • 2012.7 手術記録の作成期限を術後24時間以内に設定
  • 2012 手術記録作成期限を厳守できなかった執刀医は手術室への入室を禁止
  • 2012.7 JCI受審を契機に、手術記録に必要な項目や作成内容について、各会議で啓発活動を実施
  • 2016.9 手術記録作成状況リストにて作成状況をタイムリーに把握し、作成者へのフィードバックを実施
  • 2017 診療科別作成状況をモニタリングし、フィードバックを定期的に実施
  • 2018 手術記録作成率 月別推移や診療科別作成率等のフィードバックを適宜実施
  • 2019 術後24時間以内の未作成者へフィードバックを適宜実施
  • 2021~研修医が出席する会議と研修医を管理する委員会にて手術記録の期限内作成率報告を定期的に実施
  • 2022~管理者が出席する会議にて手術記録の期限内作成率報告を定期的に実施

Check(評価)

  • 2008以前より 手術記録未作成リストを担当医師と担当診療科に定期的に通知し、作成率を診療科名や医師名とともに院内で公表
  • 2012.7 手術記録項目不備リストを毎週抽出し、診療科別や個別にて適宜指導
  • 2016~2020 効果的な督促方法の検討
  • 2022~月別作成率の推移から季節的変動を見出し、必要時督促強化

Act(改善)

  • モニタリング継続
  • 督促の強化

考察、改善に向けての今後の予定など

早期作成の必要性を繰り返し教育、医療記録オーディット委員会や教育研修部などとも連携を継続

考察

退院時サマリーに関して、2004年までは作成する際の記載量に制限がありませんでした。そのため、電子カルテの基礎情報自動取り込み機能の使用により記載された情報が要約されずに残ったままとなり、退院後の外来受診等で要点がわかりづらいなどの問題がありました。そこで、2005年より退院時サマリーをA4サイズ1枚に制限して、改めて要約した記載とすることを周知しました。

また、退院時サマリーの作成医に対して、教育目的で医療記録オーディット委員会を中心に、2008年4月に退院時診断名付与基準を設け、診療科ごとに要点を付加した退院時サマリーの書き方をまとめ、レクチャーの機会を設けました。2012年にはJCI受審を契機に退院時サマリーに必要な項目、作成内容について、各会議にて啓発を繰り返しました。2014年度に診療録管理体制加算1の取得を確実にするために、「退院後2週間以内退院時サマリー承認率90%」に向けてさらなる期限内作成厳守を目指し督促を強化しました。2015年より研修医教育の責任者として、各診療科にEC(Educational chief)を任命し、直接の指導医として彼らが診療科ごとに研修医の業務指導、進捗管理を担うことができるようにしました。2016年より作成期限前督促を開始しており、作成医だけでなく指導医も含めて連絡をするようにしています。指導医には作成医の状況把握を促し、初回作成のみならず差し戻しによる訂正の際も期限内に再作成できるよう対応を促しています。

その結果、退院時サマリーの作成率は2013年度以降には90%以上、2015年度以降には95%以上を継続し、2021年度以降は診療科チーフレジデントの更なる作成医への指導もあり100%を達成しています。

手術記録に関しても、2012年のJCI受審を契機に手術記録に必要な項目、作成内容について、各会議にて啓発を繰り返しました。手術記録未作成の手術を毎月定期的に抽出してリスト化し、診療科別や個別にフィードバックを行い、適宜指導を行いました。2012年度以降は、48時間以内の作成率が80%以上でほぼ推移しています。手術記録の早期作成は、季節的変動とともに作成者に依存することが多く、個別のフィードバックに力を入れています。

改善に向けての今後の予定

医師として、研修医の時に退院時サマリーや手術記録を適切かつ迅速にまとめるトレーニングは必要要件の一つです。的確に情報整理された記録の作成は、患者の今後の診療に役立つ資料になることはもちろん、作成者自身も施行した診療、起こった出来事を客観的に振り返ることで自身の技術を高めることができる学びのためにも重要な機会です。そしてそれらの記録の質の強化を伴う作成率向上には、研修医時代における診療科ごとの指導がとても有効です。施設全体で積極的に指導を行う文化を根付かせることが重要であり、併せて指導医の資質が問われますので、今後も適切なフィードバックに注力していきます。

将来的には退院時サマリーと手術記録は規格、記載項目ともに、国レベルで標準化2)されることが望ましいと考えます。しかし、医療機関ごとに任されている現状では、当施設内で過不足のない有益な情報を整えておくことが患者・医療者の両者にとって最良と考えます。個々の患者の診療やケアの連携が円滑に行われるよう作成率改善に向けた取り組みを行いつつ、データの蓄積とその利活用が、より多くの人に恩恵をもたらすように研鑽を続けます。

参考文献

執筆者

阿部 香代
医療情報課
押見 香代子
医療情報課
医療の質
評価側面
Struc­ture Pro­cess Out­come
指標改善
パターン
医療従事者へのリマインド コミュニケーションの改善 監査とフィードバック 医療者への教育 患者への教育 患者へのリマインド 患者へのプロモーション 組織・体制の変更 ルールの変更

8 緊急検体検査結果報告 目標時間達成率 Percentage of emergency laboratory test report time within target value

緊急検体検査結果報告 目標時間達成率

当院値の定義・計算方法

分子
採血管受付から結果登録までの時間が目標値を達成した検体数
目標値:血算15分以内/生化学30分以内/凝固検査30分以内
分母
緊急検査として提出された「血算」「生化学検査」「凝固検査」の検体数

臨床的意義: なぜこの指標が医療の質を示しているのか

血液などの検体検査の結果が報告されるまでの時間は、患者の診断や治療に直結する診療支援の指標となります。とりわけ、救急外来や入院患者の急変に対しては、検査を迅速に進める必要があります。この検査は緊急検査とよばれ、一般の患者検体よりも優先して検査を行います。当科では、24時間365日体制で緊急検査を実施し、検査結果の報告に遅れが無いか全ての検査の報告時間をモニタリングしています。

Plan(計画)

  • 2005 検査種別ごとに平均報告時間として測定開始
  • 2014 検査種別ごとの結果登録時間の目標値を設定
  • 2014 検査処理能力向上のために機器の入替を検討
  • 2016 新機器導入効果を更に活かすために、業務運用の見直し
  • 2017 7月より、評価方法を検査種別の目標値の達成率に変更
  • 2018 検体の品質確保についての院内周知を計画
  • 2023 検査の作業効率の改善、機器の性能と機能の向上を目的として、検査部門システムと機器の入れ替えを検討

Do(実行)

  • 2014 検査種別ごとの結果登録時間をモニタリング
  • 2014 検査システムおよび検査機器の選定
  • 2015 検査システムおよび検査機器の新規導入設置
  • 2016 新たなワークフローの運用を開始
  • 2017 報告時間達成率の計測
  • 2018 院内勉強会「正確な検査のための検体取り扱い講習会」を開催
  • 2019 検体の取り扱いについての学習コンテンツ作成

Check(評価)

  • 2014 目標時間を超える原因の解析
  • 2017 報告時間達成率の評価
  • 2018 検査種別ごとに目標値を超える原因を解析
  • 2018 勉強会参加者へのアンケート調査

Act(改善)

  • モニタリング継続
  • 2015 検査システムおよび検査機器の新規導入により、平均報告時間が短縮
  • 2018 検体検査の取り直し基準の見直しを検討、学会基準等を参考に再設定
  • 2018 検体の取り扱いについて各職種に必要な学習機会の提供を検討

考察、改善に向けての今後の予定など

「迅速かつ正確」な検査を目指して

当科では、2005年より検査種別ごとの検査結果報告時間を計測してきました。2014年には、緊急検査、通常検査それぞれに採血管受付から結果登録までの時間の目標値を定め、それ以降は、目標値を達成した割合として評価を継続しています。

2015年5月に検査システムおよび検査機器の全面入れ替えを行ったことにより、検査の処理能力は大きく向上し、報告時間を大幅に短縮することができました1)2)。しかしながら、機器更新から8年が経過した現在、機器の老朽化に加え新しい検査の導入やCOVID-19関連検査などの業務の増加は、報告時間に影響を及ぼします。今後、検査結果報告時間短縮に向けて更なる作業効率改善、検査部門システムや機器の性能と機能の向上が必須の課題となっています。

2019年には、検査を実施する前段階としての検体の品質確保のために、正しい採取方法や最低限必要な血液の量、搬送方法などの周知を目的とした学習の機会を用意しました。職員の入れ替わりにも対応できるよう、随時学習が可能なコンテンツです。これにより、検体の取り直しによる検査結果の遅れの防止、また、患者さんや対応する職員の負担軽減につながると考えています。

迅速な検査結果の報告は、診療支援に非常に重要ですが、報告された結果が正確なものでなければ意味がありません。臨床検査科は、2018年に「ISO 15189」 認定を取得しました。「ISO 15189」は、臨床検査室の品質と能力に関する国際規格であり、正しく検査がなされていることを保証するものです。様々な要求事項を満たすことが必要であり、維持していくことは決して簡単ではありませんが、これからも国際規格に適した検査の品質を維持し、患者さんと、診療に責任をもつ臨床医のニーズを満たす検査サービスの提供が出来るよう活動していきたいと思います。

参考文献

  • 1)Shikano H et al.: Evaluation of Renovated Laboratory Information System and Laboratory Automation System for Quality Management of Clinical Laboratory. The 10th Cherry Blossom  Symposium-international Conference of Clinical Laboratory Automation, Seoul, Korea, April 20-22, P.53, 2016.
  • 2)田篠絵理香他:当院検体検査室の全面改装およびシステム更新による業務効果の評価―JCI認証の過程を含めー.臨床病理. 66:24, 2018.

執筆者

深澤 千寿美
臨床検査科マネジャー
服部 加奈子
臨床検査科マネジャー
医療の質
評価側面
Struc­ture Pro­cess Out­come
医療の質を評価する3つの側面についての説明が入ります。
医療の質を評価する3つの側面(構造・過程・結果)のどれに相当するのかを示しています。
指標改善
パターン
医療従事者へのリマインド コミュニケーションの改善 監査とフィードバック 医療者への教育 患者への教育 患者へのリマインド 患者へのプロモーション 組織・体制の変更 ルールの変更
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